エゼルバルド (マーシア王)
エゼルバルド（Æthelbald、757年没）は、8世紀のアングロサクソン時代において、マーシア王国を最も有力な国家へと引き上げた国王です。
彼はアルウェオの子、そして一部資料で王位にあったとされるエオワの孫として生まれました。幼少期、当時のマーシア王であった従兄弟ケオルレッドによって国外へ追放された経験を持ちます。この追放中に、エゼルバルドは聖グスラックという名の隠修士を訪ねたと伝えられており、グスラックは彼の王位奪還を予言したとされています。エゼルバルドは即位後、グスラックを記念する修道院を建てて恩に報いました。
716年、ケオルレッド王が宴会の最中に突然亡くなると、エゼルバルドはマーシアへ帰還し、王位に就きました。これにより、ペンダ王の直系子孫ではない系統が一時的に王位を継承することとなりました。彼の治世は実に約40年にも及び、この長い期間を通じて、マーシアはかつてのペンダやウルフヘレといった強力な王たちの時代に匹敵する勢力を回復し、アングロサクソン七王国の中でも抜きん出た地位を確立しました。これは同時代に王位が不安定だった他の王国、特にノーサンブリアとは対照的でした。
エゼルバルドは731年までに、イングランド南部、具体的にはハンバー川以南の広範な地域を支配下に収め、「上王」（overlord）としての宗主権を確立しました。彼に従属した下位の王たちは「subregulus」や「underking」と呼ばれました。こうした関係性は、土地の所有を認める勅許状の証人リストに、従属王だけでなくエゼルバルドの名も記されることなどから推察されます。特にウェセックスやケントといった有力な王国に対しても影響力を拡大し、ウェセックスでは王位継承争いに介入し、その後の王たちの即位に関与した可能性があります。ウェセックス王クスレッドは一度エゼルバルドに反抗し、バーフォードで彼を破ったと伝えられますが、最終的にはマーシアの権威に従属し、ウェールズ遠征にも協力しています。エゼルバルドは軍事行動も厭わず、ウェセックスへの遠征や、ピクト人と同盟してノーサンブリアを襲撃するといった記録が残されています。
中世の年代記において、エゼルバルドが「ブレトワルダ」（広域の支配者）の一人に数えられていないことは、歴史家の間で議論の対象となっています。8世紀のベーダは7人の王を挙げ、後の『アングロサクソン年代記』は彼らをブレトワルダと呼び、さらにウェセックス王エグバートを加えましたが、強大であったエゼルバルドやその後のオファは含まれませんでした。これは、年代記がウェセックス人によって編纂されたために、彼らの王のみを特別視した可能性が指摘されています。しかし、エゼルバルド自身は広範な権力を主張しており、736年の「イスメレ勅許状」では「マーシアのみならずイングランド南部全域の王」と称され、さらに「Rex Britanniae」（ブリタニアの王）という称号も使用しています。これはブレトワルダのラテン語訳である可能性も指摘されており、彼の権威の大きさを物語っています。
エゼルバルドの治世において、教会との関係は複雑でした。ドイツで布教していたアングロサクソン人司教聖ボニファティウスは、745年から746年にかけてエゼルバルドに手紙を送り、教会の財産の略奪や聖職者の特権侵害、修道女との関係などを厳しく非難しました。ボニファティウスは王に対し、自身の行いを悔い改め、神の恵みによって王位にあることを忘れないよう諭しました。この手紙は王の考えに影響を与えたとみられ、747年にはクロブショーで教会会議が開催され、エゼルバルドも出席しました。この会議では教会と世俗の関係や聖職者の規律などが話し合われました。さらに749年、エゼルバルドはガムリーで勅許状を発布し、教会の土地所有者に対し、橋や要塞の建設といった一部の義務を除く課税を免除しました。これはボニファティウスやクロブショー会議での議論に対応した動きと考えられています。
約40年にわたる治世の終盤、757年、エゼルバルドは居城の近くで自身の衛兵によって暗殺されました。ベーダの歴史書の追記には「夜、不誠実な方法で殺害された」と記されていますが、暗殺の具体的な動機は定かではありません。王位継承を巡る争いが原因だったとする説もあります。彼の死後、短期間ベオルンレッドが王位に就きましたが、すぐにエゼルバルドの親族であるオファが内戦を経て王位を奪取しました。エゼルバルドはレプトンに埋葬されました。レプトンには、彼のものとされる、鎧を着て冠をかぶった男性が彫られた十字架付きの柱の断片が残っており、もしエゼルバルドを表すものであれば、イングランド王の姿を刻んだ現存最古の表現となります。同時代の記録には彼の評判があまり良くなかったことを示唆するものも残されていますが、彼の長期にわたる強力な統治は、続くオファの時代にマーシア王国が最盛期を迎えるための強固な基盤を築いたと言えるでしょう。
彼はアルウェオの子、そして一部資料で王位にあったとされるエオワの孫として生まれました。幼少期、当時のマーシア王であった従兄弟ケオルレッドによって国外へ追放された経験を持ちます。この追放中に、エゼルバルドは聖グスラックという名の隠修士を訪ねたと伝えられており、グスラックは彼の王位奪還を予言したとされています。エゼルバルドは即位後、グスラックを記念する修道院を建てて恩に報いました。
716年、ケオルレッド王が宴会の最中に突然亡くなると、エゼルバルドはマーシアへ帰還し、王位に就きました。これにより、ペンダ王の直系子孫ではない系統が一時的に王位を継承することとなりました。彼の治世は実に約40年にも及び、この長い期間を通じて、マーシアはかつてのペンダやウルフヘレといった強力な王たちの時代に匹敵する勢力を回復し、アングロサクソン七王国の中でも抜きん出た地位を確立しました。これは同時代に王位が不安定だった他の王国、特にノーサンブリアとは対照的でした。
エゼルバルドは731年までに、イングランド南部、具体的にはハンバー川以南の広範な地域を支配下に収め、「上王」（overlord）としての宗主権を確立しました。彼に従属した下位の王たちは「subregulus」や「underking」と呼ばれました。こうした関係性は、土地の所有を認める勅許状の証人リストに、従属王だけでなくエゼルバルドの名も記されることなどから推察されます。特にウェセックスやケントといった有力な王国に対しても影響力を拡大し、ウェセックスでは王位継承争いに介入し、その後の王たちの即位に関与した可能性があります。ウェセックス王クスレッドは一度エゼルバルドに反抗し、バーフォードで彼を破ったと伝えられますが、最終的にはマーシアの権威に従属し、ウェールズ遠征にも協力しています。エゼルバルドは軍事行動も厭わず、ウェセックスへの遠征や、ピクト人と同盟してノーサンブリアを襲撃するといった記録が残されています。
中世の年代記において、エゼルバルドが「ブレトワルダ」（広域の支配者）の一人に数えられていないことは、歴史家の間で議論の対象となっています。8世紀のベーダは7人の王を挙げ、後の『アングロサクソン年代記』は彼らをブレトワルダと呼び、さらにウェセックス王エグバートを加えましたが、強大であったエゼルバルドやその後のオファは含まれませんでした。これは、年代記がウェセックス人によって編纂されたために、彼らの王のみを特別視した可能性が指摘されています。しかし、エゼルバルド自身は広範な権力を主張しており、736年の「イスメレ勅許状」では「マーシアのみならずイングランド南部全域の王」と称され、さらに「Rex Britanniae」（ブリタニアの王）という称号も使用しています。これはブレトワルダのラテン語訳である可能性も指摘されており、彼の権威の大きさを物語っています。
エゼルバルドの治世において、教会との関係は複雑でした。ドイツで布教していたアングロサクソン人司教聖ボニファティウスは、745年から746年にかけてエゼルバルドに手紙を送り、教会の財産の略奪や聖職者の特権侵害、修道女との関係などを厳しく非難しました。ボニファティウスは王に対し、自身の行いを悔い改め、神の恵みによって王位にあることを忘れないよう諭しました。この手紙は王の考えに影響を与えたとみられ、747年にはクロブショーで教会会議が開催され、エゼルバルドも出席しました。この会議では教会と世俗の関係や聖職者の規律などが話し合われました。さらに749年、エゼルバルドはガムリーで勅許状を発布し、教会の土地所有者に対し、橋や要塞の建設といった一部の義務を除く課税を免除しました。これはボニファティウスやクロブショー会議での議論に対応した動きと考えられています。
約40年にわたる治世の終盤、757年、エゼルバルドは居城の近くで自身の衛兵によって暗殺されました。ベーダの歴史書の追記には「夜、不誠実な方法で殺害された」と記されていますが、暗殺の具体的な動機は定かではありません。王位継承を巡る争いが原因だったとする説もあります。彼の死後、短期間ベオルンレッドが王位に就きましたが、すぐにエゼルバルドの親族であるオファが内戦を経て王位を奪取しました。エゼルバルドはレプトンに埋葬されました。レプトンには、彼のものとされる、鎧を着て冠をかぶった男性が彫られた十字架付きの柱の断片が残っており、もしエゼルバルドを表すものであれば、イングランド王の姿を刻んだ現存最古の表現となります。同時代の記録には彼の評判があまり良くなかったことを示唆するものも残されていますが、彼の長期にわたる強力な統治は、続くオファの時代にマーシア王国が最盛期を迎えるための強固な基盤を築いたと言えるでしょう。
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