ハンバー川

ハンバー川 (River Humber)

ハンバー川は、イギリスのイングランド北部、北海に面した東海岸に広がる巨大な三角江です。主に感潮河川であるウーズ川とトレント川が、トレント・フォールズと呼ばれる地点で合流して形成され、そのまま東へ向かい北海へと注ぎ込んでいます。この川は、北側のイースト・ライディング・オブ・ヨークシャーと南側のリンカンシャーという、二つの主要なカウンティ（州）の境界線としての役割も果たしています。

地理と港湾

ハンバー川水系は、広範囲にわたる内陸部と繋がっています。北側からはマーケット・ウェイトン運河が接続し、南側からはアンクホルム川が流れ込みます。さらに下流では、北岸のキングストン・アポン・ハル（ここでハル川も合流）と南岸のバートン＝アポン＝ハンバーの間を、かつて世界最長の単径間吊橋として知られ、現在も世界有数の規模を誇るハンバー橋が結んでいます。最終的に、川は北岸から伸びる細長い砂州スパーンヘッドの先端と、南岸の町クリーソープスの間を通り、北海へとたどり着きます。

ハンバー川は水深が深く、喫水の深い大型船舶でも航行が可能です。このため、ハル港、グリムズビー港、インミンガム港といった重要な港湾が集積しており、イギリスにおける海上輸送の一大拠点となっています。これらの主要港のほかにも、ニューホランドやノース・キリングホルム・ヘイヴンといった小規模な港も存在します。小河川や運河を利用すれば、小型船で内陸の広い範囲までアクセスできますが、その範囲はテムズ川と比較すると約4分の1程度に限られます。

歴史的背景

現在の三角江としての姿とは異なり、氷河時代には海水面が現在より低く、ハンバー川は北海に沈んだ広大な平原を流れる淡水河川の一部でした。古代ギリシア時代には「アブス」として知られ、ローマ帝国においては、マクシマ・カエサリエンシスとフラウィア・カエサリエンシスという二つの属州を分かつ境界として非常に重要視されました。ローマ人は、この川口をオケルム・プロモントリウム（スパーンヘッド）の先の「ゲルマンの海」（北海）へと船を出すための積み荷拠点として利用しました。ただし、中世の記録によれば、古代から沿岸に大規模な都市が築かれることはなかったようです。

アングロサクソン時代には、ハンバー川は概ねノーサンブリア王国の南側の境界として機能しました。最盛期にはノーサンブリアが川以南にも勢力を広げましたが、南岸にあたる現在のノーザン・リンカンシャー地域はリンジー王国が存在し、ノーサンブリアとマーシア王国との間で争奪の対象となりました。「ノーサンブリア」という名前自体、「ハンバーの北の人々」を意味する古英語「Norðhymbre」に由来しています。

1719年に出版されたダニエル・デフォーの冒険小説『ロビンソン・クルーソー』では、主人公が旅立つ港としてハンバー川が描かれています。また、1974年から1996年までの間、現在のイースト・ライディング・オブ・ヨークシャーとノーザン・リンカンシャーを含む地域は「ハンバーサイド」という名の独立したカウンティを形成していました。現代史における悲劇としては、1921年8月23日にイギリスの飛行船R38がハル市近くのハンバー川上空で墜落し、多数の死者を出す事故が発生しています。

渡河の歴史と試み

現在、ハンバー川を車両や徒歩で渡る主要な手段はハンバー橋のみです。この橋は1981年に開通し、かつて世界最長の単径間吊橋として名を馳せました。橋が完成する以前は、ピア・ステーション社によって運営され、後に鉄道会社に引き継がれた外輪船によるフェリーが、ハルのヴィクトリア・ピアとニューホランド・ピア駅の間を結んでいました。このフェリーは1981年にハンバー橋が開通するまで運行され、鉄道乗客や自動車輸送に利用されていました。興味深いことに、このフェリー航路は、1281年のドゥームズデイ・ブックにも記録があるヘズルとバートン＝アポン＝ハンバーを結ぶ非常に古い航路とほぼ同じ線上にありました。

現代においても、ハンバー川を渡るユニークな挑戦が行われています。2005年8月には、ハル出身のグラハム・ボーナス氏が、古代ローマ時代以降初めてとされる徒歩での川横断に成功しました。身長約2.06メートルという長身を活かし、比較的浅い場所を選んで約4時間かけて渡りきったこの挑戦は、特定の病気のためのチャリティーを目的として行われ、人気テレビ番組「トップ・ギア」でも取り上げられました。

水泳による横断も歴史があります。1911年8月には、当時19歳でヨークシャー水泳チャンピオンだったアリス・モード・ボヤール氏が、女性として初めて泳ぎきりました。近年では、2011年に始まったチャリティー水泳大会が毎年開催され、多くのスイマーが安全確保の下、ハンバー橋の下を通るコースに挑んでいます。2019年には、リチャード・ロイヤル氏がハンバー川の往復泳断を初めて達成し、その最速記録も保持しています。

軍事的な重要性

ハンバー川河口部は、その戦略的な位置から軍事的にも重要視されてきました。第一次世界大戦中には、ブル・サンズ要塞やグッドウィン要塞（キルンシー砲台）といった一連のハンバー要塞群が建設されました。これらの要塞は戦後に完成しましたが、第二次世界大戦中も使用され、1956年に廃止されました。より上流には、ナポレオン戦争期に建設されたポール要塞がありましたが、その役割は20世紀初頭にサンクアイランド村の対岸に築かれたスターリングバラ砲台に引き継がれました。

語源

ハンバー（Humber）という名前の語源については諸説あります。多くのヨーロッパの河川名と同様にケルト語に由来するという説が有力視されています。例えば、ケルト祖語で「ともに来る」を意味する語根が、現代ウェールズ語で川の合流点を指す言葉に派生しており、ハンバー川が二つの大きな川の合流によって形成されている事実に符合します。また、ケルト・ゲルマン語派における特定の音韻変化（KからHへの変化）を考慮すると、この語根からHumberへの変化は可能性として考えられます。

古代のラテン語文献に登場する名称「アブス（Abus）」も、ケルト語で河口や三角州を意味する「Aber」がラテン語化されたものではないかと考えられています。さらに、「Abus」や「Aber」は、より古くインド・ヨーロッパ祖語の「水」や「川」に関連する言葉に遡るとする見方もあります（例えば、南アジアのパンジャーブ地方の名も関連するとされます）。別の説では、ラテン語の「覆う」「影で覆う」といった意味の言葉から派生し、「暗い川」「黒い川」という意味になり、後のラテン語名「Humbre」や「Umbri」に繋がったとするものもあります。

中世には、アングロサクソン語でHumbre、ウェールズ語でHwmyr、ラテン語でHumbri/Umbriなど、様々な表記が見られます。イングランドのヘレフォードシャーやウスターシャーに「Humber Brook」や「Humber Court」といった地名が存在することから、「*humbr-」という語根自体に「川」の意味があった、あるいはケルト人到来以前のブリテン島の言語に由来する可能性も指摘されています。

歴史的な伝承としては、12世紀のジェフリー・オブ・モンマスが著した偽史『ブリタニア列王史』の中で、フンのハンバーという侵略者がこの川で溺死したことから名がついたという伝説が語られています。文学作品においては、17世紀の詩人アンドルー・マーヴェルの詩にも「ハンバーの流れ」としてその名が登場します。

生態系

ハンバー三角江とその沿岸地域は、豊かな生態系を育んでいます。ヨシ原、塩性湿地、汽水域の池、砂丘など、多様な環境が存在し、多くの野生生物にとって重要な生息地となっています。魚類も豊富で、サケのように産卵のために内陸河川へ遡上する魚や、ウシノシタ、タラ、ウナギ、ヒラメ、プレイス、ヤツメウナギ、サンドゴビーなど、様々な種類の魚が生息しています。鳥類の越冬地としても非常に重要であり、サンカノゴイ、チュウヒ、コアジサシ、ソリハシセイタカシギなどの繁殖地、またハジロコチドリ、ミユビシギといった鳥類の生息地となっています。ハンバー三角江にはハイイロアザラシの繁殖コロニーも確認されており、その生態系の重要性から1994年にはラムサール条約登録湿地となりました。近年では、2019年にヨークシャー・ワイルドライフ・トラストとハル大学が、60年ぶりにハンバー川にカキが戻ってきたことを報告しており、環境改善の兆候が見られます。

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