エゾアカガエル

エゾアカガエル (Rana pirica)

概要

エゾアカガエルは、両生綱カエル目アカガエル科に分類される、比較的大型のカエルです。学名は Rana pirica といい、その名の通り、主に日本の北海道地方に分布しています。北海道内の主要な島々（利尻島、奥尻島、礼文島）に加え、北方領土とされる国後島、択捉島、色丹島にも生息が確認されています。また、国境を越えてロシアのサハリンにも分布しています。北海道において、古くからその地に生息する在来のカエルは、本種とニホンアマガエルのみとされています。

分類と学名の由来

エゾアカガエルの分類は、過去に変遷を経てきました。かつては、ヨーロッパに広く分布するヨーロッパアカガエル（Rana temporaria temporaria）の亜種と見なされていた時期がありました。その後、朝鮮半島などに生息するチョウセンヤマアカガエル（Rana dybowskii）と同一の種、あるいはその亜種として扱われたこともあります。しかし、分子生物学的な手法や、特に染色体数の詳細な研究が進んだ結果、これらの種とは明確に異なる独立した種であることが明らかになりました。この科学的な知見に基づき、1991年に正式にエゾアカガエルとして Rana pirica という固有の学名が与えられました。学名の種小名である「pirica」は、アイヌ語で「美しい」を意味する言葉「pirka」を日本語の音韻体系で音写したものです。本来のアイヌ語においては、「リ」は母音を伴わない音節末の流音として発音されるという特徴があります。

形態

エゾアカガエルの大きさには性差があり、成熟したオスは体長が46ミリメートルから55ミリメートル程度、メスはそれよりも大きく54ミリメートルから72ミリメートル程度に達します。一般的にメスの方がオスよりも顕著に大きい傾向が見られます。体色は変異に富んでおり、黒っぽい褐色から赤みがかった茶色まで様々です。頭部から背面にかけての特徴として、眼の後方から体の側面を縦に走る背側線が、鼓膜の後ろあたりで緩やかにカーブを描いて内側に寄る点が観察されます。四肢は他のアカガエル類と比較してやや短く、指の間には水かきが比較的よく発達しています。オスは繁殖期に鳴くための発声器官である鳴嚢を、下顎の両側に一対持っています。なお、サハリンに生息するエゾアカガエルの個体群は、北海道の個体群と比べて形態的にかなりの違いがあると指摘されており、地理的な分化の可能性が示唆されています。

卵は直径1.7ミリメートルから2.3ミリメートルほどです。孵化してからの幼生、いわゆるオタマジャクシは、最大で全長45ミリメートルほどにまで成長します。幼生の尾は特に太くはなく、一般的なアカガエルのオタマジャクシの形態をしています。しかし、興味深い生態として、主要な捕食者であるエゾサンショウウオの幼生が多く生息する水域では、エゾアカガエルの幼生が捕食回避のための防御形態に変化することが知られています。この形態では、尾びれの丈が顕著に高くなり、胴体の側面がゼラチン状の物質で膨らんだような特異な姿となります。

生態

エゾアカガエルは、生息環境の多様性に富んでいます。平地の湿地や水辺だけでなく、森林の中、さらには標高の高い高山帯に至るまで、幅広い環境で見ることができます。食性は肉食性で、主に昆虫類、クモ類、そして土壌中に生息する小動物などを捕食しています。胃の内容物を調査した研究からは、特にヤスデやジムカデといった土壌動物が重要な餌資源となっていることが確認されています。

繁殖期は、生息地の気候によって異なりますが、多くの場合、春の訪れとともに始まり、基本的には4月から5月にかけて行われます。ただし、標高の高い寒冷な地域などでは、繁殖の時期が遅れ、夏にあたる7月頃になることもあります。繁殖期になると、オスは水辺で特徴的な鳴き声を発します。「キャラララ、キャラララ」という連続した鳴き声は、主に繁殖期に聞かれるもので、それ以外の時期に鳴くことは滅多にありません。鳴き声は夜間の方がより活発になりますが、昼間でも鳴いているのを確認できます。産卵は、池や湿地のような浅い水域、あるいは一時的にできる水たまりなどで行われます。産み付けられる卵は粘液に包まれ、全体として扁平な球状の卵塊を形成します。一つの卵塊に含まれる卵の数は比較的多く、700個から1100個程度です。時には、多くのメスが同じ場所に集まって産卵し、非常に規模の大きな卵塊群が観察されることもあります。

寒冷な冬季、概ね11月から翌年の4月頃にかけては、水底の泥の中などで冬眠して過ごします。これは、厳しい冬を乗り越えるための重要な生態的戦略です。

もう一度検索