ニホンアマガエル

ニホンアマガエル：身近なカエルの生態

ニホンアマガエル（Dryophytes japonicus）は、アマガエル科に属する小型のカエルで、日本を含む東アジアに広く分布しています。その姿や鳴き声は私たちにとって非常に身近な存在であり、多くの人が一度は目にしたことがあるでしょう。

分布

ニホンアマガエルは、日本国内では北海道から九州、そして周辺の島嶼部にかけて広く分布しています。また、朝鮮半島や中国東部にも生息しており、その適応能力の高さが伺えます。ただし、近年の研究では、近畿地方を境に東西で遺伝的な違いがあることが明らかになっています。

形態

体長は2.0～4.5cm程度で、メスの方がやや大きい傾向があります。オスは通常4cm以下です。特徴的なのは、鼻筋から目、耳にかけて通る褐色の太い帯です。また、前足には4本、後足には5本の指があり、すべての指先に丸い吸盤を持っています。この吸盤のおかげで、垂直な壁面や植物の葉にも張り付くことができ、樹上生活に適応しています。

体色は、腹側が白色で、背側は通常黄緑色ですが、周囲の環境や温度、湿度、明るさなどに応じて、灰色や褐色に変えることができます。これは、皮膚の色素細胞を伸縮させることによるもので、保護色として機能しています。まれに、色素細胞の変異により、青や黄色の個体が見られることもあります。特に、空色の個体は黄色色素が欠乏したもので、話題になることもあります。夜間には、土の上でも緑色を呈することがあります。

生態

ニホンアマガエルは、水辺だけでなく、森林や樹上でも生活するカエルです。春から秋にかけて活動し、冬は地中で冬眠します。他の両生類が減少傾向にある中、ニホンアマガエルは立体的な活動が得意で乾燥にも強いため、都市部でも見かけることがあります。しかし、ヒキガエルに比べると都市化には弱い面もあります。肉食性で、小さな昆虫やクモなどを捕食します。動くものに反応し、短い舌で獲物を捉え、大きな口で飲み込みます。夜間には、明かりに集まる昆虫を狙って、人家の窓や自動販売機の周辺にも現れます。

天敵は、鳥類、ヘビ、哺乳類など多岐にわたります。また、大型のカエルや肉食性の水生昆虫、魚類も捕食者となります。さらに、ゴミムシの一種であるオオキベリアオゴミムシの幼虫は、アマガエルに寄生し、最終的には死に至らしめることもあります。見た目が似ているカエルとしては、シュレーゲルアオガエルやモリアオガエルがいますが、ニホンアマガエルは体が小さく、目の周りに褐色の帯があること、灰褐色の体色の際はまだら模様が出ることで区別できます。

ニホンアマガエルは、人を恐れることもなく、手のひらに乗せたり、腕をよじ登ったりすることがあります。その親しみやすさから、農村の子どもたちの遊び相手にもなってきました。人里や里山に生息していますが、高原の湿地など人が立ち入らない場所には生息しません。水田の伝播とともに分布を広げた可能性も指摘されています。

広告音と雨鳴き

ニホンアマガエルの鳴き声は、「ゲッゲッゲッゲッ…」や「クワックワックワッ…」と表現されます。鳴くのはオスのみで、喉にある鳴嚢（めいのう）を使い、声を共鳴させて大きな音を出します。繁殖期の春には、水田でオスが盛んに鳴き、メスを呼びます。この繁殖期の鳴き声は「広告音」と呼ばれます。ニホンアマガエルは、雨が降りそうになると繁殖期以外でも、昼間に鳴くことがあります。この鳴き声は「雨鳴き」や「レインコール」と呼ばれ、繁殖期の広告音とは区別されます。

生活環

春になると、成体は水田などの止水域に集まります。この頃のオスの鳴嚢は茶色っぽくなり、メスと区別しやすくなります。メスが現れると、オスはメスの背中に抱きついて抱接し、水面で産卵・放精を行います。受精卵は、寒天質のひもでつながり、水面に漂います。2～3日ほどで孵化した幼生はオタマジャクシとなり、水中で生活します。ニホンアマガエルのオタマジャクシは全身が褐色で、うすいまだら模様があるのが特徴です。オタマジャクシは藻類などを食べ、約1ヶ月かけてカエルの姿に変態します。変態後、子ガエルは上陸し、それぞれの場所へと散っていきます。寿命は数年程度と考えられています。アマガエル類は吸盤を持つため、壁に囲まれた水場にも産卵できます。

水田地域では、一生を水田付近で過ごす個体も多いです。稲の出穂時期に水田から離れる個体もいますが、稲刈り後も水田付近に留まり冬眠する個体もいます。春先の気温が高い年には、冬眠から自発的に目覚めて鳴き出すこともあります。

生息環境と個体数

ニホンアマガエルは、吸盤を使って垂直な面を移動できるため、水田とその周辺の環境変化に比較的強いとされています。しかし、圃場整備によって畔や法面が固められると、乾燥や捕食者から逃げにくくなり、生息数が減少することがあります。一方で、塩化ビニルパイプの設置は、カエルの密度を維持するのに有効な方法とされています。耕作放棄された水田には、アシやガマが生い茂り、ニホンアマガエルは寄り付かなくなる傾向があります。

毒性

ニホンアマガエルは皮膚から毒を分泌しますが、触る程度では問題ありません。ただし、傷のある手で触れたり、触った手で目や口を擦ると、痛みを感じたり、失明の危険性があるため、注意が必要です。

他のアマガエル

アマガエル科には、世界中で約650種類ものカエルが知られています。日本では、南西諸島にハロウエルアマガエルが分布しており、ニホンアマガエルよりも体が細く、模様がないのが特徴です。また、ヒメアマガエルも南西諸島に分布していますが、アマガエル科ではなく、ヒメアマガエル科に分類されます。

文化

雨鳴きについては、「親の墓が流される」と泣くアマガエルの昔話が各地に伝わっています。この話から、ヘソ曲がりの子供を「ぎゃくぎゃくどんく」と呼ぶ地方もあります。また、「ぎゃくぎゃくどんく」はニホンアマガエルの方言呼称としても使われます。

ニホンアマガエルは、私たちの生活と密接に関わってきたカエルです。その生態を理解し、身近な自然を守ることは、生物多様性の保全にもつながります。

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