エゾゼミ

エゾゼミ

エゾゼミ（学名：Lyristes japonicus）は、カメムシ目セミ科に分類される昆虫です。分類上、クマゼミとは比較的近い仲間とされています。かつてはTibicen属に分類されていましたが、現在は命名規則に従いLyristes属に変更されています。この属名であるLyristesは、ギリシャ語で「竪琴を奏でる者」を意味し、その大きな鳴き声にちなんでいると考えられます。

特徴

成虫は大型のセミで、全長59～66mm、体長40～46mm、前翅を開いた幅は115～130mmほどになります。これはアカエゾゼミとほぼ同じ大きさですが、コエゾゼミやキュウシュウエゾゼミ、ヤクシマエゾゼミといった同属の他の種と比較すると、大型であることが特徴です。体の色合いは褐色を基調としており、胸部の背面側面が白い粉で覆われている点が見分ける際の重要な特徴となります。また、前胸背板の外側部分には黄褐色の帯模様が見られ、これは通常、途切れることなく繋がっています。ただし、稀にこの黄褐色の帯が途中で途切れる個体も確認されています。この他にも様々な色彩や模様の変異が知られており、中には体全体が黄褐色になり、通常見られるW字型の黄色い模様がない「エチゴエゾゼミ」（学名：L. j. var. echigo）と呼ばれる変種も存在します。

分布

日本では北海道から九州にかけて広く生息しており、佐渡島や隠岐諸島といった島嶼部でも確認されています。北海道においては十勝地方が東側の分布限界とされています。このセミは、本来南方系の性質を持つため、夏季でも比較的涼しい北海道周辺よりも、むしろ長野県や南東北地方、特に長野県でより多くの個体が見られる傾向にあります。中国にも分布するとされていますが、韓国での記録については、他の種と混同された可能性が高いと考えられています。

ちなみに、エゾゼミを含むLyristes属のセミは、日本だけでなく北半球の広い範囲に生息しています。特に北アメリカ大陸、中でもアメリカ合衆国では非常に多くの種類が知られており、その数は70種を超えるともいわれています。南部のテキサス州やフロリダ州のような地域では、市街地でもその鳴き声がよく耳にされます。一方、ヨーロッパ南部にもLyristes属のセミが生息しており、オオナミゼミ（あるいはヨーロッパエゾゼミとも呼ばれます）がフランス南部、イタリア南部、ギリシャなどで確認されています。特に夏の気温が高いギリシャでは多くの個体が見られ、首都アテネの中心部でも毎年夏になると、このセミたちの盛んな鳴き声が響き渡ります。このように、欧米では日本のエゾゼミ属のセミとは異なり、都市部でも比較的普通に生息しているという点が特徴です。有名な昆虫学者ファーブルは、その著書『昆虫記』の中で、フランス南部に生息するこの仲間の生態について詳細に記述しています。

生態

主な生息環境は地域によって異なります。北海道や東北地方では主に平野部でも姿を見かけますが、本州中部より西の地域では、標高500mから1000m程度の山地に多く生息しています。成虫が現れる時期は7月中旬頃から9月中旬にかけてで、これは地域によって多少前後します。アカマツ、スギ、ヒノキといった針葉樹や広葉樹の木々にとまり、頭を下にして幹に逆さまにぶら下がるようにして鳴きます。クマゼミやミンミンゼミと同様、よく晴れた日の午前中を中心に活動し、「ギー」という大きな声で鳴き始めます。その鳴き声は同属のコエゾゼミやアカエゾゼミの鳴き声とよく似ていますが、エゾゼミの鳴き声には、他の2種にはない震えるような独特のビート音が混じっているため、聞き分けることが可能です。交尾の際には、オスとメスがV字型に体を重ねる姿勢をとります。このセミは、ヒグラシやエゾハルゼミと同様に、森林を主な生息場所とする「森林性セミ」に分類されます。特に、薄暗い雑木林などでよく見られます。この森林性の傾向は、エゾゼミだけでなく、日本に生息するLyristes属の他のセミにも共通する特徴です。

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