エディット・スコブ

エディット・スコブ

エディット・スコブ（Édith Scob、1937年10月21日 - 2019年6月26日）は、フランスを代表する女優の一人です。60年を超える息の長いキャリアを通じて、映画、テレビ、そして舞台と幅広い分野で活躍しました。特に初期のジョルジュ・フランジュ監督作品での象徴的な役柄や、晩年のセザール賞ノミネートに繋がる円熟した演技で知られています。私生活では作曲家のジョルジュ・アペルギスと連れ添いました。

1937年10月21日、フランスの首都パリで生まれた彼女のキャリアは、1960年代初頭に大きな転機を迎えます。それが、ジョルジュ・フランジュ監督によるゴシックホラーの傑作『顔のない眼』（1960年）への出演です。この作品で、顔に深い傷を負い、仮面をつけて暮らす悲劇的な娘を演じたエディット・スコブは、その神秘的で儚い存在感で観客に強烈な印象を与えました。この成功を機に、彼女はフランジュ監督のミューズ的存在となり、『火刑の部屋』（1962年）、『殺人紳士録』（1962年）、『ジュデックス』（1963年）といった後続の作品でも重要な役柄を演じ、監督との緊密な協力関係を築きました。

1960年代後半に入ると、彼女の活動はさらに多様化します。シュールレアリズムの巨匠、ルイス・ブニュエル監督の寓話的な作品『銀河』（1969年）に出演するなど、個性豊かな監督たちとの仕事を通じて、女優としての幅を広げていきました。70年代以降も、『雨のエトランゼ』（1971年）、『愛の地獄』（1977年）、そして評価の高い『殺意の夏』（1983年）など、様々なジャンルの作品に出演し、フランス映画界における確固たる地位を築いていきます。

キャリアを通じて、彼女はフランス映画の歴史を彩る数々の作品に貢献しました。レオス・カラックス監督の壮大な叙事詩『ポンヌフの恋人』（1991年）への参加は、その代表例の一つです。90年代以降も、『溶岩の家』（1994年）、『エステサロン ヴィーナス・ビューティ』（1999年）、『見出された時 「失われた時を求めて」より』（1999年）、『女写真家ソフィー』（2000年）など、精力的に活動を続けました。

2000年代に入っても、彼女の勢いは衰えませんでした。『ヴィドック』（2001年）、『ジェヴォーダンの獣』（2001年）、パトリス・ルコント監督の『列車に乗った男』（2002年）、『薬指の標本』（2005年）など、幅広い作品で存在感を示しました。

特に晩年のキャリアにおいて、彼女の演技は再び大きな注目を集めます。オリヴィエ・アサイヤス監督作『夏時間の庭』（2008年）で、家族の遺産と向き合う老婦人を演じ、2009年の第34回セザール賞で助演女優賞にノミネートされました。さらに、かつて組んだレオス・カラックス監督の特異な世界観を持つ作品『ホーリー・モーターズ』（2012年）では、主人公を乗せるリムジンの謎めいた運転手という印象的な役を演じ、2013年の第38回セザール賞で再び助演女優賞ノミネートという栄誉に輝きました。

その後も、『ワニの黄色い目』（2014年）、『ボヴァリー夫人とパン屋』（2014年）、『レンタルファミリー』（2015年）、『劣等生』（2016年）、ミア・ハンセン＝ラヴ監督の『未来よ こんにちは』（2016年）など、精力的な出演が続きました。彼女の遺作となったのは、2019年公開の『ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから』でした。

映画やテレビドラマでの活躍に加え、エディット・スコブは長年にわたり舞台女優としても高い評価を得ていました。演劇の場で培われた確かな表現力は、彼女の映像作品における深みと複雑さにも寄与したと言えるでしょう。

エディット・スコブは、60年以上に及ぶ息の長いキャリアを通じて、フランス映画に欠かせない存在であり続けました。初期の象徴的な役柄から晩年の円熟した演技まで、その独特のオーラと確かな実力は、多くの観客と映画製作者を魅了し、フランス映画史に確かな足跡を残しています。

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