エデル・ジョフレ

ブラジルが生んだボクシング界の至宝、エデル・ジョフレは1936年3月26日にサンパウロで生まれた。父もボクサーという環境で育ち、アマチュア時代には150戦148勝2敗という圧倒的な戦績を残し、オリンピックにも出場するなど、若くからその才能を発揮した。

1957年にプロデビューを果たすと、ジョフレは連勝街道をひた走る。当時の強豪たちを次々と破り、1960年11月18日、空位のNBA世界バンタム級王座をエロイ・サンチェスと争い、KO勝利で世界のバンタム級王者に輝いた。プロわずか38戦目での快挙だった。

世界の頂点に立ったジョフレは、その王座を盤石なものとする。バンタム級王座を8度にわたり防衛したが、その全てをノックアウトで達成した。英国王者のジョニー・コードウェルとの統一戦や、日本の強豪、青木勝利、かつて戦ったジョー・メデルらを退けるなど、その強打は圧倒的だった。また、日本の矢尾板貞雄との試合では苦戦を強いられながらも、最終ラウンドで逆転KOを収めるなど、勝負強さも見せた。

しかし、ジョフレのプロキャリアにおいて、唯一黒星を喫したのは日本のファイティング原田である。1965年5月18日、バンタム級9度目の防衛戦として来日したジョフレは、原田と対戦。多くの予想を覆し、原田は驚異的なスタミナと手数で猛攻を仕掛け、ジョフレも応戦するが、壮絶な打撃戦の末、僅差の判定で敗れた。翌年の再戦でも再び原田に敗れ、ジョフレは一度引退を表明した。

一度はリングを離れたジョフレだが、階級をフェザー級に上げて復帰。そして1973年、37歳というベテランの域に達しながら、WBC世界フェザー級王者のホセ・レグラに挑戦。試合中にダウンを喫しながらも逆転し、判定で勝利。見事に二階級制覇を成し遂げた。続く初防衛戦では、強豪ビセンテ・サルディバルをボディブローでKO。衰えぬ実力を見せつけたが、その後防衛戦は行われず、1974年に王座を剥奪された。

その後、1976年には再びリングに上がるも、父の死を機に、同年10月8日の試合を最後に現役を引退した。彼の最終戦績は75戦69勝（48KO）2敗4引分け。プロキャリアの2敗はいずれもファイティング原田から喫したものであり、ジョフレに勝利したプロボクサーは原田ただ一人という記録は、今なお特筆すべき事実として語られる。

ジョフレはピーカブー・スタイルを基盤に、巧みな防御と的確なカウンター、そしてフォロー・スルーの効いた強打で相手を倒した。リングを降りれば人格者であり、原田との初戦後に見せたスポーツマンシップ溢れる行動や、菜食主義であったことなど、多くのエピソードが残る。

「黄金のバンタム」エデル・ジョフレは、2022年10月2日、86歳で逝去した。彼の偉大な功績と、唯一の敗北相手であるファイティング原田とのライバル関係は、世界のボクシング史に永遠に刻まれている。

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