エドゥアルト・レメーニ

エドゥアルト・レメーニ（本名ホフマン、後にレメーニに改姓）は、1830年 1月17日にハンガリーのミシュコルツに生まれたユダヤ系のヴァイオリニストです。ブラームスの若き日の演奏旅行に同行したこと、ヨハネス・ブラームスと同郷の著名なヴァイオリニスト、ヨーゼフ・ヨアヒムを引き合わせたこと、そしてブラームスの代表作の一つである《ハンガリー舞曲》を巡って盗作の疑いで訴訟を起こしたこと（結果はレメーニ側の敗訴となりました）など、ドイツ・オーストリアの音楽史にその名を刻んでいます。彼の兄であるアンタル・レメーニは旅行家・作家として活動しました。

生涯

レメーニの音楽教育は、1842年から1845年にかけてウィーン音楽院で行われました。この時期の学友には、後に世界的に活躍するヨーゼフ・ヨアヒムや、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の創設に関わったヨーゼフ・ヘルメスベルガー1世らがいました。

1846年、レメーニはハンガリー革命への関与を疑われ、オーストリア帝国から国外追放の憂き目に遭います。これにより、彼はアメリカ合衆国へ渡り、およそ5年間を放浪の音楽家として過ごしました。

1853年、ヨーロッパへの帰還を果たしたレメーニは、一時期ヴァイマルを訪れ、巨匠フランツ・リストの庇護のもと指導を受けました。翌1854年には、イギリスのヴィクトリア女王のヴァイオリニストとして宮廷に仕えることになります。

1860年には大赦によって故郷ハンガリーに戻ることが許され、その後はオーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフの宮廷ヴァイオリニストとなりました。宮廷楽師としての地位を確立した後も、レメーニは精力的に活動を続け、1865年にはヨーロッパ各地で演奏旅行を行いました。

1871年から1877年まではパリで過ごし、その後2年間ロンドンに滞在するなど、ヨーロッパの主要都市で活躍しました。さらに活動の範囲を広げ、北米や中米でも演奏旅行を重ねました。

1886年には、文字通りの世界一周演奏旅行に着手します。この旅で彼はアフリカ南端の喜望峰を越え、アジアへと渡りました。インドシナ半島や中国、そして日本でも演奏活動を行ったことが伝えられています（日本での活動については後述します）。

音楽活動

レメーニは、作曲だけでなく編曲の分野でも才能を発揮しました。フレデリック・ショパンのワルツ、ポロネーズ、マズルカや、フランツ・シューベルトのピアノ曲、さらにはヨハン・セバスチャン・バッハの鍵盤楽曲などをヴァイオリン用に編曲しました。これらの編曲作品は、《ヴァイオリンの新しい教程》と題した曲集にまとめられ、出版されています。また、自身の作品としてヴァイオリン協奏曲も残しています。

故郷であるミシュコルツ市は、彼の功績を記念して「レメーニ・エデ音楽賞」を設立しています。

ブラームスとの関わり

エドゥアルト・レメーニとヨハネス・ブラームスの出会いは、ブラームスの音楽キャリア初期において非常に重要でした。二人は演奏旅行を共にし、特にレメーニは、当時既に高名だった同郷のヴァイオリニスト、ヨーゼフ・ヨアヒムにブラームスを紹介しました。これが、ブラームスのその後のキャリア形成に大きな影響を与えたことはよく知られています。

しかし、二人の関係は常に友好的であったわけではありません。ブラームスの作曲した《ハンガリー舞曲》集について、レメーニは自身の作品からの盗用であると主張し、ブラームスを訴えました。この訴訟は音楽界で大きな話題となりましたが、最終的にはレメーニ側の敗訴に終わりました。この一件は、二人の関係に深い亀裂を残しました。

日本への来日

1886年、世界一周旅行の一環として、レメーニは日本を訪れました。同年7月に、伴奏ピアニストのイジドア・ラックストーン、ソプラノ歌手のルイーザ・マルケッティらと共に来日しました。

まず神戸に上陸し、居留地にあった劇場で2回の公演を行いましたが、当時の日本人観客は全くおらず、外国人居留者向けの演奏会でした。その後、横浜へ移動し、8月に居留地で5回の公演を開催しました。

日本滞在中最も特筆すべきは、1886年 8月10日の活動です。昼には、明治天皇をはじめとする皇族方の御前で演奏する機会を得ました。この御前演奏には、明治天皇、昭憲皇太后、小松宮彰仁親王と有栖川宮熾仁親王のご一家などが出席されました。また、この御前演奏は、昭憲皇太后を含む女性皇族が宮中で初めて洋装を着用した歴史的な場としても記憶されています。

同日夜には、鹿鳴館で演奏会を開催しました。当時の日本の新聞は、レメーニの来日や演奏について報じていますが、その内容からは当時の日本における西洋音楽への知識不足が伺えます。例えば、東京日日新聞（8月12日付）は、レメーニの容貌や演奏スタイルに言及する一方で、具体的な演奏曲目については全く触れていませんでした。

一方、横浜で発行されていた英字新聞の報道によると、横浜での演奏会では、ベートーヴェンの「クロイツェル・ソナタ」、パガニーニの「カプリス」、そしてレメーニ自身が編曲した小品などが演奏されたと伝えられています。

日本滞在最後の演奏会となった8月11日の公演では、演奏中に会場の外から聞こえてくる按摩師の笛の音にレメーニが激怒し、一時演奏を中断して音の方を睨みつけたというエピソードも残っています。

2002年7月に、当時の明仁天皇と美智子皇后がハンガリーを訪問した際の晩餐会での天皇陛下のあいさつの中でも、1886年のレメーニによる御前演奏が言及されました。その際、「曲目については明記されていませんが、当時の記録から5曲が演奏されたことが分かっております」と述べられています。

エドゥアルト・レメーニは、波乱万丈の生涯を経て、1898年 5月15日にアメリカのサンフランシスコでその生涯を閉じました。

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