エドマンド殉教王

エドマンド殉教王の生涯と殉教

エドマンド殉教王（Edmund the Martyr）は、9世紀にイースト・アングリアを治めた王であり、その生涯と殉教は数多くの伝説と信仰に彩られています。彼の生誕年は841年とされ、869年11月20日に殉教したとされています。正教会、ローマ・カトリック、聖公会で聖人として列聖されています。

生い立ちと即位

エドマンドの出自については諸説あります。初期の信頼できる史料では、先代のイースト・アングリア王であるウフィング家の血を引くとされています。一方、別の史料では、彼の父はイースト・アングリア王エセルワードであるとされています。また、ウェルズのジェフリーは、彼をサクソン人の王アルクムンドの末子であると主張しています。

855年、14歳のエドマンドはイースト・アングリア王に即位し、エルムハム司教ハンベルタスによって戴冠されました。当時の王都であったブレス・セント・メアリーで戴冠式が行われたと伝えられています。即位後の14年間、エドマンドは公正で模範的な王として国を治め、民から敬愛されました。彼は、ハンストンにある塔に1年間引きこもり、聖書の詩篇を暗唱したという逸話も残っています。

殉教

869年、デーン人の大異教徒軍がイースト・アングリアに侵攻し、エドマンド王はこれと戦いましたが、ウッベ・ラグナルソンと骨無しイーヴァー率いるデーン軍に敗北し、捕らえられてしまいました。

エドマンド王がどのように殺害されたかについては諸説あります。一般的には、彼はキリスト教信仰を捨てることを拒否したため、デーン人によって拷問を受け、矢で射殺されたとされています。フルーリのアボーによると、エドマンド王は自ら戦うことを拒否し、キリストの受難を模倣し殉教することを望んだと伝えられています。彼の最期は、まるで聖セバスチャンの殉教のようだったとされています。

エドマンド王が亡くなった年は、当初870年とされていましたが、最近の研究では869年であるという説が有力です。これは、当時のアングロサクソン年代記が9月を年始としていたため、現代の日付とはずれが生じたためです。

戦場となった場所については、サフォーク州アイ近郊のホクスンや、ケンブリッジシャーのDernford、ベリー・セント・エドマンズ近郊のブラッドフィールド・セント・クレアなどが候補として挙げられています。

遺体と聖人としての評価

エドマンド王の遺体は、最終的にBeadoriceworth（現在のベリー・セント・エドマンズ）に埋葬されました。彼の墓はすぐに巡礼地として有名になり、12世紀には修道士によって教会が拡張されるほど活発になりました。彼の墓には奇跡的な話も多く、死後、矢傷は癒え、頭も体とくっついていたとされています。また、遺体はまるで眠っているかのように新鮮で柔らかかったと伝えられています。この奇跡は、湿地遺体（ボグ・ボディ）との類似性を指摘する研究者もいます。

11世紀後半には列聖されたようですが、正確な日付は不明です。エドマンド王は、イングランド貴族の間で非常に人気があり、アングロ・ノルマン朝は彼の人気を利用し、王朝の正統性を主張しました。彼の紋章旗はアジャンクールの戦いでも掲げられました。

イングランド各地に彼を祀る教会が建てられ、クリストファー・レンが設計したロンドンの聖エドマンド殉教王教会もその一つです。また、聖エドマンドの名を冠したカレッジも複数あります。ベリー・セント・エドマンズにある彼の廟は、宗教改革中に破壊されてしまいましたが、彼の聖人としての評価は揺るぎないものです。

伝説と遺物

エドマンド王の死後、数々の伝説が生まれました。その一つが、切断された彼の頭部が、オオカミによって守られたという物語です。また、彼が迫害を受けたと言われる古木がホクスン公園にあり、その木が切り倒された際に矢尻が見つかったという話も残っています。

後援と影響

エドマンド王は、様々な王、はやり病、拷問の犠牲者の守護聖人とされています。ローマカトリックのイースト・アングリア司教区、英国のサフォーク州、ドゥエ・アビー、フランスのトゥールーズでも守護聖人とされています。正教会とカトリックでは、彼をイングランドの守護聖人としていますが、現在のカトリック典礼には彼の日付は含まれていません。

2006年には、BBCラジオ・サフォークなどが、聖エドマンドをイングランドの守護聖人にしようという運動を起こしましたが、エドワード3世が聖ジョージをイングランドの守護聖人としたため、実現には至りませんでした。

復讐とフィクション

パーシー・ダーマーの著書には、エドマンド王の死後、ヴァイキングたちに対する復讐が語られています。クヌート王はキリスト教に改宗し、ベリー・セント・エドマンズの修道院を再建し、祖先の行いを償うために自身の王冠を聖廟に捧げたという逸話があります。

また、バーナード・コーンウェルの歴史小説『ラスト・キングダム』では、捕らえられたエドマンド王が、神の力を異教徒に示すために、自ら殉教を望んだという描写があります。

まとめ

エドマンド殉教王は、9世紀のイースト・アングリアを治めた王であり、その勇敢な生き方と殉教は、後世に大きな影響を与えました。彼の信仰は、様々な伝説や奇跡譚と共に語り継がれ、今もなお、多くの人々に敬愛されています。

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