エドモントンの陽気な悪魔

『エドモントンの陽気な悪魔』（The Merry Devil of Edmonton）は、その名の通り、陽気な魔法使いピーター・ファーブルを主人公とした、イギリス・ルネサンス演劇の喜劇です。「陽気な幽霊」というあだ名を持つファーブルが繰り広げる物語は、観客を魅了しました。

創作年代とテキスト

研究者たちの間では、この劇の創作年代は1592年よりも後、1600年から1604年の間であるという見解が有力です。1604年には、同時代の劇『Black Booke』の中で言及されていることから、この時期に既に存在していたことがわかります。1607年10月22日には書籍出版業組合に登録され、翌1608年には書籍商アーサ・ジョンソンによって最初の四折版（Q1）が出版されました。その後も17世紀中に5冊の四折版が出版されており、人気の高さが伺えます。しかし、これらの四折版にはいずれも作者名は記されていません。

上演史

『エドモントンの陽気な悪魔』は、1608年5月8日に宮廷で上演された記録が残っています。さらに、1612年から1613年のクリスマス・シーズンには、ジェームズ1世の王女エリザベスとフリードリヒ5世の結婚祝賀の一環として、国王一座によって宮廷で上演された20の戯曲のうちの1つにも選ばれました。これらの記録は、この劇が当時いかに人気があり、重要な演目であったかを示しています。

作者

1653年、出版者のハンフリー・モーズリーは、この劇の権利を獲得した際に、ウィリアム・シェイクスピアの作品として再登録しました。モーズリーの説は、他の書籍販売人や劇作家にも受け入れられ、一時的にはシェイクスピア作として認識されました。実際に、チャールズ2世の蔵書にもシェイクスピアの作品として収録されています。しかし、出版史が示すように、『エドモントンの陽気な悪魔』はシェイクスピア劇団である国王一座によって上演されていましたが、シェイクスピア独自の作風を示す決定的な証拠は見つかっていません。

19世紀以降、一部の評論家からは、マイケル・ドレイトンやトマス・ヘイウッドが作者であるとする説も提唱されましたが、広く受け入れられませんでした。1942年には、ウィリアム・エイモス・エイブラムズがトマス・デッカー説を唱えましたが、こちらも定説には至っていません。このように、長年にわたって作者が特定されていないことも、この劇の謎めいた魅力の一つと言えるでしょう。

『エドモントンの陽気な悪魔』は、その陽気な物語とミステリアスな背景から、今日まで多くの人々を魅了し続けています。作者不明という謎が、この劇の魅力をさらに深めているのかもしれません。

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