イギリス・ルネサンス演劇

イギリス・ルネサンス演劇：シェイクスピア時代を彩る舞台芸術

イギリス・ルネサンス演劇は、16世紀後半から17世紀前半、イングランドで花開いた演劇であり、宗教改革後から1642年の劇場閉鎖までを指します。この時代は、ウィリアム・シェイクスピアをはじめとする多くの巨匠を輩出し、演劇史に輝く金字塔を築き上げました。しばしば「エリザベス朝演劇」と呼ばれますが、これはエリザベス1世の治世（1558年～1603年）に限られるため、ジェイムズ1世、チャールズ1世の治世を含めた、より広範な時代を包含する「イギリス・ルネサンス演劇」という呼称の方が正確です。

歴史：中世の伝統から近代劇場へ

イギリス・ルネサンス演劇は、中世の演劇伝統を土台として発展しました。中世の神秘劇、聖書を題材とした宗教劇が重要な源流であり、教会内から世俗の祝祭へと舞台を広げていきました。神秘劇から派生した道徳劇や、大学で上演されたギリシア悲劇を模倣した大学劇なども、ルネサンス演劇の基礎を築きました。さらに、イタリアのコメディア・デラルテや宮廷の仮面劇といった影響も受け、次第に洗練された劇場へと進化していきました。

エリザベス朝以前から、貴族の庇護を受けた巡業劇団が存在していました。これらの劇団は、地方で上演されていた神秘劇や道徳劇を受け継ぎ、プロの劇団へと発展しました。1572年の法律によって無許可の劇団は「浮浪者」として取り締まられるようになり、貴族をパトロンとするプロの劇団が中心となりました。エリザベス1世の庇護と枢密院の支援を受け、テムズ川沿いのロンドン郊外、特にサザークに多くの劇場が建設されました。これらの劇場は、女王への御前公演のリハーサルという建前のもと、ロンドン当局の統制を逃れて繁栄しました。

職業俳優の台頭により、演劇の性格も変化しました。当初は社会階級を問わず共通の芸術でしたが、私設劇場の発展と共に、上流階級の嗜好に合わせた作品が増えていきました。チャールズ1世の時代後期には、新作の創作が減少し、既存の作品の再演が中心となりました。

劇場：公設劇場と私設劇場の興隆

イギリス・ルネサンス演劇の隆盛を支えたのは、大規模で成功を収めた公設劇場の設立です。1576年のシアター座を皮切りに、カーテン座、ローズ座、スワン座、グローブ座、フォーチュン座、レッド・ブル座など、多くの劇場がロンドンに建設されました。これらの劇場は、多角形をしており、3階建てで、中央の広間を取り囲むように客席が配置され、ステージは3方向から観客に囲まれた構造でした。木材や茅葺き屋根のため火災の危険性が高く、グローブ座やフォーチュン座は火災で焼失し、再建されました。

一方、ブラックフライヤーズ座に代表される屋内劇場も発展しました。これは、現代の劇場に近い構造で、より洗練された上演が可能でした。ホワイトフライヤーズ座、コックピット座、ソールズベリ・コート座といった屋内私設劇場も次々と設立され、1630年代にはロンドンには6つの劇場が存在しました。屋外劇場ではシェイクスピアやマーロウといった巨匠の作品が、屋内劇場では新進作家たちの作品が上演されていました。劇場の観客数は、1580年ごろの約5000人から、1610年には10000人を超える規模に成長しました。

上演：レパートリー制と俳優たち

劇団はレパートリー制を採用していました。同じ作品を連続して上演することはほとんどなく、多様な作品を上演することで観客を惹きつけました。劇団は男性のみで構成され、女性の役は少年俳優が演じていました。1592年のローズ座でのストレインジ卿一座の公演記録によると、週6日公演を行い、23作品を上演。人気作品でも2日連続で上演されることは稀でした。

劇作家：シェイクスピアと競演する才能たち

ロンドンの人口増加と富の増大、そして人々のエンターテインメントへの関心の高まりによって、多様な劇文学が生まれました。エリザベス朝には600作品以上の戯曲が書かれ、その多くは中流階級出身の作家によって執筆されました。シェイクスピアは俳優でもありましたが、多くの作家は専業の作家で、経済的に苦労する者も少なくありませんでした。劇作家は自分の作品に対する著作権を持っておらず、劇団に売却すると、その後の上演や改訂に関する権利は劇団に帰属しました。そのため、複数の作家が共同で作品を執筆するケースも少なくありませんでした。

終焉：清教徒革命と劇場閉鎖

清教徒は劇場を罪深いものとみなし、女性役を演じる少年俳優の女装を倒錯的であると批判しました。また、劇場周辺の治安の悪さも非難の対象となりました。清教徒革命と内戦勃発後、1642年9月2日、議会はすべての劇場閉鎖を命じました。これは倫理的な理由に加え、清教徒を批判する諷刺劇を弾圧する政治的な意図もありました。その後、王政復古まで劇場は閉鎖されました。

ジャンル：史劇、悲劇、喜劇の三様式

イギリス・ルネサンス演劇には、史劇、悲劇、喜劇という主要なジャンルがあります。シェイクスピアの史劇、マーロウの悲劇、市民喜劇など、多様な作品が創作されました。また、牧歌劇や道徳劇といった古い形式や、悲喜劇といった新しい形式も登場しました。

主要な劇作家、俳優、劇場、劇団

この時代には、多くの著名な劇作家、俳優、劇場、劇団が存在しました。シェイクスピア、マーロウ、ジョンソン、デッカーなど、多くの才能が活躍し、イギリス演劇史に大きな足跡を残しました。上記のリストに挙げられている以外にも、数多くの劇作家、俳優、劇場、劇団が活躍し、イギリス・ルネサンス演劇の隆盛を支えました。

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