エドワード・エヴァン・エヴァンズ＝プリチャード

サー・エドワード・エヴァン・エヴァンズ＝プリチャード（Sir Edward Evan Evans-Pritchard, 1902年 9月21日 - 1973年 9月11日）は、20世紀イギリスを代表する社会人類学者の一人です。彼は長年、オックスフォード大学の社会人類学講座で教授として指導的な役割を果たし、その理論と民族誌研究は後続の研究者たちに計り知れない影響を与えました。

生い立ちと学問への道

1902年、エヴァンズ＝プリチャードは英国イースト・サセックス州のクロウバラで生を受けました。名門ウィンチェスター・カレッジで教育を受けた後、オックスフォード大学のエクセター・カレッジに進学し、歴史学を専攻します。このオックスフォードでの学生時代に、彼は人類学者ロバート・マレットの講義に触れ、人類学の世界に強い関心を抱くようになります。卒業後、さらに専門的な学びを深めるため、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス（LSE）へと移りました。LSEでは、機能主義人類学の旗手であったブロニスワフ・マリノフスキに師事し、その最初期から学ぶ学生の一人となりました。マリノフスキのもとで人類学研究の方法論を習得した彼は、フィールドワークの重要性を認識し、精力的に研究活動を展開します。

フィールドワークと博士号取得

エヴァンズ＝プリチャードは、初期のフィールドワークでスーダンのアザンデ族を対象としました。彼らの社会組織、特に複雑な妖術（呪術）や託宣、呪術信仰に関する詳細な調査を行い、その成果をまとめた論文「イギリス・エジプト領スーダンバハル・アル・ガザール地方のアザンデ族の社会組織」により、1928年に博士号を取得しました。このアザンデ族に関する研究は、後に『アザンデ人の世界』として結実し、異文化の思考様式を理解するための古典的な名著として高く評価されています。

オックスフォード大学教授として

第二次世界大戦後、エヴァンズ＝プリチャードのキャリアは新たな段階を迎えます。1946年、彼はオックスフォード大学の社会人類学講座において、構造機能主義の創始者の一人であるA.R. ラドクリフ＝ブラウンの後任として教授に就任しました。1970年までの長きにわたり、この要職にあって、イギリス社会人類学の中心的人物として多くの学生を指導し、学界を牽引しました。

学術的貢献と主要な研究テーマ

エヴァンズ＝プリチャードの学術的貢献は多岐にわたりますが、特に重要なのは、社会現象を社会構造やその機能だけで説明しようとする従来の機能主義的アプローチに対し、人々の内面的な思想や観念、世界観といった「意味」を重視する視点の導入を提唱したことです。これは「機能から意味へ」「科学主義から人文主義へ」の転換として語られ、人類学における解釈的アプローチや象徴人類学への道を開くものとなりました。彼は、アザンデ族の妖術信仰や、ヌアー族の社会構造、親族・婚姻制度、そして宗教といった、人間の根源的な社会・文化的営みを深く掘り下げて研究しました。ヌアー族に関する一連の研究成果は、『ヌアー族』、『ヌアー族の親族と結婚』、『ヌアー族の宗教』として発表され、非国家社会における政治組織や親族関係、時間・空間概念の理解に新たな地平を切り開きました。また、リビアのサヌーシー教団に関する研究『The Sanusi of Cyrenaica』など、イスラーム社会に関する研究も行っています。

受賞と栄典

その輝かしい学術的業績に対し、エヴァンズ＝プリチャードは数々の栄誉に浴しました。1963年にはトーマス・ハックスリー記念賞を受賞し、1971年には英国王室から「サー」の称号を授与されました。これは彼の学術的貢献が国家によって公式に認められたことを示しています。

エヴァンズ＝プリチャードは、厳密なフィールドワークに基づいた豊かな民族誌記述と、理論的な深さを兼ね備えた研究を通じて、社会人類学の方法論と対象領域を大きく刷新しました。彼の研究は、異文化理解や人間の多様な社会・文化的営みを解明する上で、現在でも多くの示唆を与え続けています。

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