エネルギー効率改善都市

エネルギー効率改善都市

エネルギー効率改善都市（エネルギーこうりつかいぜんとし）は、2014年9月23日に国連本部で開催された気候サミットにおいて、エネルギー効率および経済効率の向上に顕著な取り組みを行っている都市を讃える目的で示された概念に対して、日本が独自に用いている和名です。この概念に基づき、日本の富山市が国際的に模範都市の一つとして紹介されました。

名称の由来と背景

この呼称の背景には、国連の潘基文（パン・ギムン）事務総長が主導する気候変動対策「SE4ALL（Sustainable Energy for All：すべての人のための持続可能なエネルギー）」があります。SE4ALLで掲げられた目標の一つである「Global Energy Efficiency Accelerator Platform（世界的エネルギー効率加速プラットフォーム）」を推進するため、具体的な成功事例を示す必要がありました。

その過程で「District Energy in Cities Initiative（都市主導の地域エネルギー）」を促進するための先行事例・模範都市として、アメリカのミルウォーキー、メキシコのメキシコシティ、ペルーのリマ、デンマークのコペンハーゲンとともに富山市が挙げられたのです。日本国内では、この状況を捉え、「エネルギー効率改善都市」という言葉が使われるようになり、特に外務省関係者の発言が報道されたことなどを経て、富山市がこれを公式名称として採用しました。当初は政府や関係省庁で広く用いられていたわけではありませんでしたが、富山市の記者会見などで正式に使用されるようになりました。

「顕彰」の意味と誤解

この件について、「国連が富山市をエネルギー効率改善都市に選定した」という表現が初期報道で使われ、富山市側も「選定」と称したことから、一般に「認定された」「登録された」といった誤解が広まりました。富山市が過去に環境モデル都市に「選定」された経験が影響したと考えられますが、国連の関連文書には「選定（selection）」や「認定（authorization）」、「登録（registration）」といった言葉は見られません。エネルギー効率改善都市は、世界遺産のように条約に基づいて定められた厳格な制度ではなく、エネルギー効率向上に向けた取り組みを積極的に行っている都市を、模範例として「顕彰した」と理解するのが適切です。また、他の都市が「選定された」と報道されたケースについても、原文では「参加（participating）」と記されており、これは「自ら参加の意思を表明した」という意味合いが強く、富山市のように模範事例として挙げられた都市とは位置づけが異なります。

模範都市の取り組み

模範都市として挙げられた5都市は、それぞれが地域の実情に合わせてエネルギー効率改善や再生可能エネルギーの導入を進めています。目的は「都市主導の地域エネルギー」の推進にありますが、SE4ALLの文脈ではより幅広い持続可能なエネルギー関連の取り組みが対象となります。例えば、富山市はLRT（次世代型路面電車）の整備や小水力発電の導入などが評価されました。これらの取り組みは、富山市が以前から環境モデル都市や環境未来都市に選定される要因となったものです。特に、イタイイタイ病発祥地という歴史的背景から環境問題への意識が高く、エネルギー消費を含む格差が少ない都市としても知られています。

広がりと参加主体

「世界的エネルギー効率加速プラットフォーム」や「都市主導の地域エネルギー」への関心は世界的に広がっています。都市以外だけでなく、UNEP（国連環境計画）やIEA（国際エネルギー機関）といった国際機関、関連業界団体、さらに企業もこの取り組みに関与しています。多くの都市がプラットフォームへの参加や地域エネルギーシステム導入に関心を示しており、その地理的な範囲はアジア、ヨーロッパ、南北アメリカなど多岐にわたります。

意義と課題

SE4ALLは2030年までに、普遍的なエネルギーアクセス達成、エネルギー効率の倍増、再生可能エネルギーのシェア倍増を目指しており、「エネルギー効率改善都市」の概念は、京都議定書のように国家単位での合意や離脱に左右されることなく、都市が主体的に環境負荷を減らす行動を促す意義を持ちます。

しかし、課題も存在します。模範都市や参加都市は、経済的格差、人口規模、生活環境、文化的背景、地理的条件などが多様であり、単純な比較やモデル化が難しい側面があります。特に地域エネルギーシステムのような大規模インフラ整備には多額の投資が必要であり、資金調達が困難な途上国にとっては大きな障害となります。日本国内でも、富山市は新たな「エコまち法」に基づく計画策定が遅れており、十分な対応とは言えない状況です。また、コンパクトシティなど他の取り組みの評価も様々であり、再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度についても不確実性が指摘されています。富山市が「エネルギー効率改善都市」の肩書を活かして環境関連事業や観光誘致を進める上でも、真に環境を重視した運営が求められます。

関連する動き

富山市がこの概念における模範都市に挙げられたことを受けて、2016年には伊勢志摩サミット関連の環境大臣会合が富山市で開催されました。

世界には、エネルギー効率改善都市以外にも、環境分野で優れた取り組みを行う都市を顕彰する多様な国際的な制度が存在します。例えば、持続可能な都市づくりを目指す「エコシティ」や「サスティナブルシティ」、IT活用による効率化を図る「スマートシティ」、地域エネルギー供給を評価する「世界的地域エネルギー気候賞」、気候変動対策を先導する都市を表彰する「気候リーダーシップ賞」、そしてユネスコが推進する創造都市ネットワーク（クリエイティブシティ）などがあり、それぞれ異なる観点から都市の環境問題や持続可能性に取り組んでいます。これらの制度は、必ずしも日本国内で広く知られているわけではありませんが、国際的な都市づくりの動向を理解する上で重要です。

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