エピタフ -1969年の追憶-

『エピタフ -1969年の追憶-』（英語: Epitaph Official Bootleg : Live in 1969）は、プログレッシブ・ロック史にその名を刻むバンド、キング・クリムゾンが1997年に発表したライブ・アルバムです。この作品は、バンドの黄金期ともいえる1969年、デビュー・アルバム『クリムゾン・キングの宮殿』を創造したオリジナル・メンバー五人組による貴重なライブ演奏を記録しています。

制作背景

本作は、バンドの創設メンバーであり、現在までキング・クリムゾンを牽引し続けるギタリスト、ロバート・フリップの発案で実現しました。プロデューサーであるデヴィッド・シングルトンは、公式なミキシング・デスク録音や、BBCラジオ放送用のセッション、さらには当時の非公式な海賊盤といった多岐にわたるソースから音源を収集しました。これらの音源は、約4ヶ月という時間をかけて、シングルトンによって丹念な音質改善と編集作業が施されました。その結果、当時の演奏の熱気を可能な限り忠実に再現したアルバムが完成しました。

アルバムは、1997年3月に、フリップとシングルトンが共同で立ち上げたレーベル「ディシプリン・グローバル・モービル」から、豪華な2枚組CDボックスセットとしてリリースされました。

収録されたパフォーマンス

本作には、1969年に行われたいくつかの重要なライブやセッションの記録が収められています。

BBCセッション

バンドは、BBCラジオの人気音楽番組『トップ・ギア』のために、1969年5月と8月の二度にわたり、BBC Radio 1のMaida Vale Studiosでスタジオ・ライブ録音を行いました。アルバム冒頭を飾る4曲は、これらのセッションから選ばれています。音源は、BBCに残されていたマスターテープと、イタリアで流通していた海賊盤を組み合わせて編集されました。収録曲の一つである「ゲット・ザイ・ベアリングス」は、フォークシンガー、ドノヴァンの1968年の楽曲「しっかりおしよ」のカヴァー演奏です。

初のアメリカ・ツアー

1969年10月に歴史的なデビュー・アルバム『クリムゾン・キングの宮殿』を発表した後、キング・クリムゾンは同年12月まで、初の北米ツアーを敢行しました。本作には、このツアーの中から、ニューヨークのフィルモア・イーストとサンフランシスコのフィルモア・ウェストという、アメリカの著名なライブ会場でのパフォーマンスが収録されています。

フィルモア・イースト

ニューヨークのフィルモア・イーストで行われた1969年11月21日のコンサートからは、3曲が収録されました。この公演は本来8トラックで録音されていたものの、そのオリジナル・テープは残念ながら所在不明となっており、本作ではドラマーのマイケル・ジャイルズが個人的に所有していたカセット・テープレコーダーによるコピー音源が使用されています。収録された「ア・マン・ア・シティ」は、後にセカンド・アルバム『ポセイドンのめざめ』（1970年）に収録される楽曲「冷たい街の情景」の原型となった重要な演奏です。

フィルモア・ウェスト

サンフランシスコのフィルモア・ウェストでの録音は、特にこの時期のバンドの活動のクライマックスを捉えています。12月14日の録音も、カセット・テープレコーダーによるものです。収録された「マントラ」と「トラヴェル・ウィアリー・カプリコーン」は、本来は別個の楽曲ですが、ここでは続けて演奏されています。また、「マーズ」は、クラシック音楽の作曲家グスターヴ・ホルストによる組曲『惑星』の第一曲「火星、戦争をもたらす者」を大胆にアレンジしたものです。

翌日の12月15日の録音は、この五人組によるラインナップでの最後のステージを捉えた極めて貴重な記録です。このコンサートは、当時のロード・マネージャーであるリチャード・ヴィッカーズによって録音され、この日をもってバンドを離れることになっていたマルチ奏者のイアン・マクドナルドに手渡されました。本作には、そのテープが使用されています。収録されている「ドロップ・イン」は、後にアルバム『アイランズ』（1971年）に収められる楽曲「レターズ」の原曲にあたります。

収録曲

（曲名表記は発売当時のものです）

Disc 1

1. 21世紀の精神異常者 - 21st Century Schizoid Man
2. クリムゾン・キングの宮殿 - In The Court Of The Crimson King
3. ゲット・ザイ・ベアリングス - Get Thy Bearings
4. エピタフ（墓碑銘） - Epitaph
トラック1-4: BBC Radio Sessions at Maida Vale Studios (1, 2 May 1969; 3, 4 August 1969)
5. ア・マン・ア・シティ - A Man A City
6. エピタフ（墓碑銘） - Epitaph
7. 21世紀の精神異常者 - 21st Century Schizoid Man
トラック5-7: Filmore East, New York, 21 November 1969
8. マントラ - Mantra
9. トラヴェル・ウィアリー・カプリコーン - Travel Weary Capricorn
10. インプロヴィゼイション-トラヴェル・ブリアリー・カプリコーン - Improv - Travel Bleary Capricorn
11. マーズ - Mars
トラック8-11: Filmore West, San Francisco, 14 December 1969

Disc 2

1. クリムゾン・キングの宮殿 - In The Court Of The Crimson King
2. ドロップ・イン - Drop In
3. ア・マン・ア・シティ - A Man A City
4. エピタフ（墓碑銘） - Epitaph
5. 21世紀の精神異常者 - 21st Century Schizoid Man
6. マーズ - Mars
トラック1-6: Filmore West, San Francisco, 15 December 1969

参加メンバー

ロバート・フリップ – ギター
イアン・マクドナルド – 木管楽器、キーボード、メロトロン、ヴォーカル
グレッグ・レイク – ベース、リード・ヴォーカル
マイケル・ジャイルズ – ドラムス、パーカッション、ヴォーカル
* ピート・シンフィールド – 作詞、照明

『エピタフ -1969年の追憶-』は、キング・クリムゾンの伝説的な黎明期を音で辿る貴重なドキュメントであり、当時のメンバーたちの息遣いや、進化し続ける音楽性を肌で感じることができる作品として、ファンにとって欠かせないアイテムとなっています。

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