エマオの晩餐 (カラヴァッジョ、ロンドン)

『エマオの晩餐』は、イタリアバロック期の巨匠カラヴァッジョによって1601年に制作された絵画であり、現在はロンドンのナショナル・ギャラリーに所蔵されています。この作品は、もともとチリアーコ・マッテイによって依頼され、その代金が支払われました。

この絵画は、復活したイエス・キリストが、エマオの町で二人の弟子（一般的にルカとクレオパとされる）に自身の正体を明らかにする瞬間を描いています。イエスは、パンを割く行為を通じて自らの存在を示し、直後に姿を消します（ルカの福音書24章30-31節）。

画面には、巡礼者の象徴であるホタテ貝の貝殻を身につけたクレオパと、粗末な服を着たもう一人の弟子が描かれています。クレオパは、画面内側から外側へ、遠近法的に困難な表現で腕を伸ばしており、この動きによって、鑑賞者を絵画の世界へと引き込む効果を生み出しています。一方で、額が滑らかで顔が暗闇に隠れている宿屋の主人は、この出来事に全く気づいていないようです。この絵画は、等身大の人物と暗い背景という、当時としては異例な構成を持っています。食事が並べられたテーブルは、静物画のような美しさを見せる一方、食物が入ったかごはテーブルの端から危うく傾いており、使徒たちの不安定な世界を暗示しているようです。

マルコによる福音書（16章12節）には、イエスが「別の形で」使徒たちの前に現れたと記述されています。そのため、『聖マタイの召命』で髭を生やした姿で描かれているキリストとは異なり、この『エマオの晩餐』では髭のない姿で描かれています。カラヴァッジョは、しばしば日常の中に神聖な存在を登場させ、人々の生活を中断させるというテーマを描いてきました。『聖マタイの召命』では、お金を数える使徒たちがキリストの呼びかけによって中断させられますが、『エマオの晩餐』では、イエスが日常的な食事の場で弟子たちに認識されることで、人間としての姿を現し、その後超越的な存在へと変化します。この場面において、イエスの高貴でない人間としての側面が、その存在をより身近に感じさせる役割を果たしています。カラヴァッジョは、イエスが私たちの日常的な出会いの中に現れる可能性を示唆しているのかもしれません。暗い背景は、この場面全体を包み込み、神秘的な雰囲気を醸し出しています。

カラヴァッジョは、1606年にも『エマオの晩餐』（現在はミラノのブレラ美術館所蔵）を制作しています。このミラノのバージョンと比較すると、人物の身振りはより抑制されており、演劇的な表現よりも存在感が重視されています。両作品に共通する技法として、トロンプ・ルイユ（だまし絵）の手法が用いられており、人物が身振りによって動いているかのように見せ、鑑賞者の注意を引きつけています。

ミラノの作品に見られる相違点は、当時のカラヴァッジョの状況を反映している可能性があります。画家はラヌッチョ・トマッソーニの死後、無法者としてローマを逃亡していました。また、画家の芸術的な変化を示唆しているとも考えられます。この5年の間に、画家は表現における抑制の価値を見出したのかもしれません。

参考文献として、ナショナルギャラリーによる絵画のレビューや、メトロポリタン美術館の展覧会カタログ『現実の画家：ロンバルディアのレオナルドとカラヴァッジョの遺産』などが挙げられます。このカタログには、『エマオの晩餐』に関する詳細な資料が含まれています。

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