エマヌエーレ・ダストルガ

エマヌエーレ・ダストルガ

エマヌエーレ・ダストルガ（Emanuele d'Astorga, 1680年3月20日 - 1757年）は、17世紀末から18世紀にかけて活躍したイタリアの作曲家であり、貴族としての背景を持つ人物です。盛期バロック音楽の時代に位置づけられ、特に声楽曲の分野で名を残しました。彼の姓「ダストルガ」は、若き日に音楽教育を受けたスペインの地名に由来するとされています。

ナポリに生まれたダストルガの生涯は、今日に至るまで謎に包まれた部分が多く、その正確な軌跡を完全にたどることは困難です。音楽史家たちの研究により、いくつかの有力な仮説が立てられていますが、確証が得られていない事柄も少なくありません。

彼の幼少期は、極めて悲劇的な出来事に見舞われました。父は両シチリア王国の男爵であり、当時スペイン王家の支配下にあった故郷の独立を目指して活動していましたが、部下の裏切りによって捕らえられ、公衆の面前で処刑されることとなります。幼いエマヌエーレと彼の母は、この凄惨な光景を目撃することを強いられました。母はショックのあまりその場で息を引き取り、エマヌエーレ自身も深い心の傷を負い、塞ぎ込みがちになり、正気を失いかねないほど精神的に不安定になりました。

このような窮状にあった彼を救ったのは、ウルシーニ公の計らいでした。公爵の好意により、エマヌエーレはスペイン、レオン県にあるアストルガの男子修道院に引き取られます。この地で彼は心身の健康を取り戻し、優れた教師たちの指導のもと、自身の音楽的な才能を磨き上げました。この修道院での教育が、彼の後の音楽家としての基盤を築いたと言えるでしょう。

その後の活動についても、確かな情報と不確かな情報が混在しています。1703年にパルマ大公フランチェスコ・ファルネーゼの宮廷に仕えたという説がありますが、これは確証のある話ではありません。同様に、パルマ大公の姪エリザベッタ・ファルネーゼ（後にスペイン王妃となる人物）との関係を疑われ、宮廷を追われたという話も、伝説の域を出ないと考えられています。

比較的確実視されている経歴としては、以下のようなものがあります。

1709年: バルセロナで自身の歌劇《ダフネ（Dafne）》を作曲し、その初演を指揮しました。
時期不明: ロンドンを訪れ、おそらく当時の重要な音楽団体であった古楽アカデミーに出席したと推測されています。
時期不明: 彼の代表作であり、今日最もよく知られている宗教曲《スターバト・マーテル（Stabat Mater）》を作曲しました。この作品は1713年にオックスフォードで初演されています。
1712年: ウィーンに滞在していたことが記録されています。
* 晩年: 年代は不明ですが、チェコのボヘミア地方へ隠棲したとされています。そこで彼はロプコヴィッツ侯の領地にあったラウドニッツ（ラウトニッツ）の城館を与えられ、その地で1757年に静かに生涯を終えました。

ダストルガは、特に宗教的な声楽作品において高い評価を受けています。とりわけ、マリアが十字架の下で悲しむ様子を描いた《スターバト・マーテル》は、荘厳さと深い情熱を兼ね備えた傑作として、現在でも演奏されることがあります。また、数々の4声のためのカンタータも彼の重要な作品群です。彼は、アレッサンドロ・スカルラッティによって確立され、発展した室内カンタータというジャンルの伝統を受け継いだ、おそらく最後の重要な作曲家の一人であったと考えられています。

幼少期の凄惨な体験が彼の内向的な性格や、音楽に見られる深い感情表現に影響を与えた可能性は高く、その短いながらも情熱的な作品群は、謎に包まれた生涯と共に、聴く者に強い印象を与え続けています。彼の伝記情報の多くは、20世紀初頭の百科事典（例: 1911年版ブリタニカ百科事典）に基づいており、その記述にも不確実な点が含まれていることを留意が必要です。

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