エミール・マール

エミール・マール

エミール・マール（Emile Mâle, 1862年6月2日 - 1954年10月6日）は、フランスの著名な美術史家であり、特に中世ヨーロッパ美術の研究において重要な足跡を残しました。フランスのアリエ県コマントリーで生まれ、1906年から1912年までソルボンヌ大学で教鞭を執りました。

業績

マールの最大の功績は、美術史学を国際的な学問領域として確立したことにあります。当時、まだ揺籃期にあった美術史研究を、古文書史料研究に基づいて発展させ、その学問的地位を高めました。ラテン語に精通していたことが、彼の研究を支える大きな力となりました。

彼の著書は、後進の美術研究者たちに中世フランス美術の図像学的説明を専門とするきっかけを与えました。図像学とは、美術作品に描かれた図像やモチーフの意味を解釈し、その文化的、歴史的背景を明らかにする学問です。マールの研究は、中世美術作品の理解を深める上で不可欠なものとなっています。

また、マールはバロック期のヨーロッパにおける図像学マニュアルであるチェーザレ・リーパ著『イコノロギア』（1593年）を1920年代後半に「再発見」したことでも知られています。この発見は、バロック美術の研究に新たな光を当てることとなりました。

著作

マールの著作は多岐にわたりますが、主要なものとして以下が挙げられます。

L'Art religieux du XIIIe siècle en France (1899)　(『フランス13世紀の宗教美術』)
Quomodo Sibyllas recentiores artifices representaverint (1899)
L'Art religieux de la fin du Moyen Âge en France (1908) (『中世末期の図像学』)
L'Art allemand et l'art français du Moyen Âge (1917)
L'Art religieux au XIIe siècle en France (1922) (『ロマネスクの図像学』)
Les influences arabes dans l'art roman (1923)
Art et artistes du Moyen Âge (1927)
L'Art religieux après le Concile de Trente (1932)
Rome et ses vieilles églises (1942)
Les Mosaïques chrétiennes primitives du IV au VII siècle (1943)
L'Art religieux du XII au XVIII siècle (1945)
Jean Bourdichon : les Heures d'Anne de Bretagne à la Bibliothèque nationale (1946)
Les Grandes Heures de Rohan (1947)
Notre-Dame de Chartres (1948)
La Fin du paganisme en Gaule et les plus anciennes basiliques chrétiennes (1950)
La Cathédrale d'Albi (1950)
Histoire de l'art (1950)
Les Saints Compagnons du Christ (1958) (『キリストの聖なる伴侶たち』)

これらの著作の中でも、特に『ゴシックの図像学』、『中世末期の図像学』、『ロマネスクの図像学』は、中世美術研究における古典として、今日でも広く参照されています。

影響

エミール・マールの研究は、美術史学の発展に大きく貢献し、後世の研究者たちに多大な影響を与えました。彼の図像学的なアプローチは、美術作品の背後にある思想や文化を理解するための重要な手法として確立され、現在でも多くの研究者に受け継がれています。

関連項目

アンリ・フォシヨン
吉川逸治
ゴシック建築
ロマネスク建築

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