エリク・カヤ

エリク・カヤ：南宋平定に貢献したウイグル人将軍

エリク・カヤ（阿里海牙）は、モンゴル帝国および大元ウルスに仕えたウイグル人将軍です。彼は南宋平定において重要な役割を果たし、特に湖広地方の平定で功績を上げました。

生い立ちと出世

エリク・カヤは、貧しい家庭に生まれ、幼い頃には不遇な境遇にありました。しかし、「大丈夫たるもの朝廷に仕えて功績を立てるべき」という志を持ち、ウイグル文字の文献を学びました。その努力が認められ、クビライに仕えるようになり、クビライが第5代皇帝に即位すると、参議中書省事、次いで僉河南行省事に抜擢されるなど、急速に昇進しました。

襄陽・樊城の戦い

1268年、エリク・カヤは元帥アジュとともに襄陽攻略を命じられました。クビライは慎重な性格で、力攻めを避け、襄陽城の包囲は5年にも及びました。1272年、エリク・カヤは、襄陽攻略にはまず隣接する樊城を攻めるべきだと献策し、クビライの許可を得ました。1273年、マンジャニーク砲の投入により樊城は陥落。エリク・カヤは、襄陽からの援軍の連携を断ち、勝利に貢献しました。樊城の陥落後、襄陽もモンゴル軍の攻撃に耐えきれず陥落。エリク・カヤは襄陽の守将呂文煥を説得し、モンゴルに投降させました。呂文煥はクビライから厚遇され、エリク・カヤもその功績により荊湖等路枢密院事に任じられました。

南宋攻略

襄陽陥落後、エリク・カヤはアジュとともに南宋攻略を進言。クビライはバヤンを総司令官に任命し、江南への進攻を開始しました。1274年、南宋遠征軍は襄陽から進軍を開始し、郢州・沙洋・新城を経て鄂州を陥落させました。鄂州を南宋攻略の後方基地とするため、エリク・カヤは4万の軍とともに鄂州に留まり、バヤンとアジュが本軍を率いて南宋の首都臨安を目指しました。エリク・カヤは軍に掠奪を禁じたため、現地の住民は喜び、寿昌・信陽・徳安などの諸城はモンゴル軍に投降しました。1275年には岳州、江陵を攻略し、荊南一帯を平定しました。この報告を聞いたクビライはエリク・カヤを大いに褒め称えました。

潭州と静江の攻略

エリク・カヤはさらに湖南に南下し、潭州を攻略しました。潭州の城兵は徹底抗戦しましたが、激戦の末に陥落しました。潭州陥落時、エリク・カヤは城民の虐殺を禁じ、食料を分け与えました。また、静江攻略では、モンゴルへの徹底抗戦に遭い、水の手を断って攻めました。静江の住民は抵抗し、自ら火を放って自害しました。エリク・カヤは静江の民の反抗が激しかったため、見せしめとして多くを処刑し、広西一帯の諸州を服属させました。

その後

その後もエリク・カヤは雷州半島・海南島の平定に従事し、湖広や広西一帯の反モンゴル運動を鎮圧しました。南宋平定後もエリク・カヤは湖広や広西一帯に絶大な影響力を有していました。1286年、入朝して光禄大夫・湖広行省左丞となりましたが、まもなく60歳で死去しました。死後、開府儀同三司・上柱国を追贈され、楚国公に封じられ、武定と諡されました。1348年には江陵王に追封されています。

エリク・カヤは、南宋平定において重要な役割を果たし、その後の地域統治にも大きな影響を与えた人物として評価されています。

もう一度検索