荊南

荊南（けいなん）

荊南は、907年から963年にかけて、中国の五代十国時代に現在の湖北省一帯を支配した地方政権です。別名、南平（なんぺい）、または北楚（ほくそ）とも呼ばれます。しかし、その実態は、中原の五代王朝の節度使に過ぎず、独立した国家ではなかったとする説も存在します。

歴史

建国

荊南の創始者である高季興（こうきこう）は、元々、汴州の商人の使用人でした。その後、朱全忠の軍に加わり、その才能を認められ副将にまで昇りつめます。907年、朱全忠が唐を滅ぼし後梁を建国すると、高季興は荊南節度使に任命され、戦乱で荒廃した地の復興に尽力しました。その後、後梁が滅亡すると、高季興は荊州、帰州、硤州の三州を拠点に自立を果たします。

勢力拡大と外交

後梁が後唐に滅ぼされると、高季興は後唐に臣従し、925年に南平王に封じられます。しかし、後唐が前蜀を攻めた際、自らの勢力拡大を阻まれたことから後唐と決別し、呉に臣従しました。高季興の死後、息子の高従誨（こうじゅうかい）が後を継ぎ、再び後唐に臣従して南平王に封じられました。高従誨は、呉、閩、南漢、後蜀といった周辺諸国にも臣従し、平和を維持しました。荊州は中国の要衝であり、その重要性を認識した高従誨は、各国の緩衝地帯として巧みな外交戦略を展開し、荊南を巨大な交易中継地点として繁栄させました。

後周への臣従と滅亡

高従誨の死後、三男の高保融（こうほうゆう）が後を継ぎます。当時、中原では後唐滅亡後、後晋、後漢、後周と政権が次々と交代していました。高保融は後周に臣従し、954年に南平王に封じられます。後周の統一事業に協力し、南唐攻めにも兵を派遣しました。さらに、後周から宋への禅譲が行われると、宋にも臣従しました。高保融の死後、弟の高保勗（こうほきょく）が荊南節度使となりますが、彼は贅沢を好み、民心を失いました。高保勗の死後、甥の高継沖（こうけいちゅう）が後を継ぎましたが、宋の統一事業の対象となり、963年に荊南は滅亡しました。

故事成語「万事休す」の由来

「万事休す」という言葉は、高従誨が高保勗を溺愛する様子を嘆いた故事に由来します。

荊南の国家としての実態

山崎覚士は、荊南に与えられた「南平王」の称号は、五代王朝が有力な節度使に与えたものであり、荊南は刺史の任命権や中央行政府を持たず、自立した国家ではなかったとする説を唱えています。この説によれば、荊南は他の九国とは異なり、五代王朝の一部だったと解釈されます。

荊南の統治者

高季興（907年 - 926年）
高従誨（926年 - 948年）
高保融（948年 - 960年）
高保勗（960年 - 962年）
* 高継沖（962年 - 963年）

まとめ

荊南は、五代十国時代に存在した地方政権であり、その歴史は、中原王朝との複雑な関係の中で展開しました。独立国としての側面も持ちながら、その実態は五代王朝の一勢力に過ぎなかったという見方も存在します。その地理的な重要性から、各国の勢力争いに巻き込まれ、最後は宋によって滅亡しました。

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