エリザ・ルモニエ

エリザ・ルモニエ：フランス女子職業教育の先駆者

エリザ・ルモニエ（Élisa Lemonnier, 1805年3月24日 - 1865年6月5日）は、19世紀フランスの教育者であり、女性の職業教育のパイオニアとして知られています。1848年の二月革命後に職を失った女性たちのために縫製作業所を設立し、その後、フランス初の女子職業教育学校を設立しました。

生い立ちと教育

1805年、エリザは南フランスのソレーズで、旧家グリマーユ家の娘として生まれました。父方の家系はソレーズの旧家であり、母方の家系は貴族の血を引いています。幼い頃に父を亡くし、母と祖母に育てられました。女子寄宿学校で読み書き、文法、算数、地理、歴史、絵画の基礎を学んだ後、従妹のサン＝シール・ド・バローのもとでさらに教育を受けました。ド・バロー夫人の自由な教育は、エリザの心身の発達に大きな影響を与えました。また、兄たちが通っていたコレージュ・ド・ソレーズの自由な校風や、フェルリュス家のサロンに出入りする知識人たちの影響も受けました。

グリマーユ家はプロテスタントであり、思想の自由と自己責任を重んじる教育方針は、エリザの知性と道徳性を育みました。彼女は生涯にわたって信仰を貫きましたが、一方で、宗教教育を排除したライックな学校を設立しました。この点は、後のサン＝シモン主義の教義に関する夫との対立、および彼女の教育観を理解する上で重要です。

サン＝シモン主義との出会い

1827年、エリザはシャルル・ルモニエと出会い、1831年に結婚しました。シャルルはサン＝シモン主義の思想に傾倒しており、エリザもまた、シャルルの影響を受けてサン＝シモン主義に関わるようになりました。サン＝シモン主義は、特権や世襲の権利の廃止、能力主義に基づく社会、平等な社会の実現を目指す思想であり、1830年代のフランスにおいて女性解放思想を確立したことで知られています。

しかし、サン＝シモン主義は、道徳に関する教義を巡って分裂し、エリザとシャルルの間にも対立が生じました。シャルルは、自由恋愛や性の解放を含む女性の完全な解放を主張するアンファンタンの教義を支持しましたが、エリザはこれを「おぞましい不道徳」と批判し、伝統的な結婚観に基づく考えを生涯変えることはありませんでした。

女子職業教育への取り組み

1848年の二月革命後、エリザは、ウジェニー・ニボワイエらサン＝シモン主義の女性たちとともに「1848年の女性たち」と呼ばれる運動を起こし、失業女性のための国立作業所の設置などを訴えました。エリザ自身も、失業に追い込まれた女性たちを救うために縫製作業所を設立し、病院や監獄に納入する衣類を製造しました。この経験から、彼女は女子職業教育の必要性を痛感し、女性の就労を促すためには家事・育児労働を軽減する必要があると考えました。

1862年、エリザは「女子職業教育協会」を設立し、パリに女子職業学校を開校しました。この学校は、宗教を問わずすべての女性に開かれた非宗教的な学校であり、フランス語、算数、歴史、地理などの一般科目に加えて、商業、簿記、英語などの専門科目を学ぶことができました。また、縫製作業所や木版画、陶器絵付けなどの作業所も設置され、実践的な職業訓練が行われました。

エリザの学校は急速に発展し、多くの女性たちが自立のための知識と技術を身につけました。彼女の取り組みは、当時の女子教育のあり方に一石を投じ、その後の女子教育の発展に大きな影響を与えました。

死去と遺産

エリザ・ルモニエは、1865年6月5日にパリで亡くなりました。享年60歳でした。彼女の死後、夫のシャルル・ルモニエによって伝記が出版され、その功績が広く知られるようになりました。パリには彼女の名前を冠した通りや学校があり、2016年には、彼女が最初に学校を開校した場所に記念銘板が設置されました。

エリザ・ルモニエは、女性の職業教育の先駆者として、その生涯を女性の自立と地位向上に捧げました。彼女の思想と行動は、現代の女子教育にも大きな影響を与え続けています。

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