エルデネ・ゾー

モンゴル最古のチベット仏教寺院：エルデニ・ゾー

エルデニ・ゾー（Erdene Zuu monastery）は、モンゴル国ウブルハンガイ県に位置する、モンゴルで最も古い歴史を誇る寺院です。オルホン渓谷という、ユネスコの世界遺産にも登録されている歴史的な地域に存在しており、その文化的・歴史的意義は計り知れません。

建立と歴史的背景

1586年、アブタイ・サイン・ハーンによって建立されました。その場所は、かつてモンゴル帝国の首都として栄えたカラコルムの旧跡です。チンギス・カンの孫、オゴデイ・カアンによって1229年に再整備されたカラコルムは、多くの建造物が立ち並ぶ繁栄した都市でしたが、1264年にクビライ・カアンが上都へ遷都したことで廃れていきました。

エルデニ・ゾーの建設は、単なる寺院の建立ではなく、チベット仏教のモンゴル高原への普及を目的とした重要な政治的・宗教的行為でした。アブタイ・サイン・ハーンは、チベット仏教の指導者であるダライ・ラマ3世、スーナム・ギャツォと交流を持ち、その影響を受けてこの寺院を造営したと言われています。興味深いことに、寺院の建設には、かつてカラコルム宮殿に使われていた建築資材が再利用されたという説もあります。歴史と文化が重なり合う、象徴的な建造物と言えるでしょう。

社会主義時代と寺院の変遷

1924年から1992年まで続いたモンゴル人民共和国の社会主義体制下では、宗教活動は厳しく制限されました。特に、1937年から1938年のヨシフ・スターリン政権下の弾圧は甚だしく、エルデニ・ゾーも例外ではありませんでした。多くの建物が破壊され、現在残っているのは、かつての壮大な寺院の面影を僅かに留める15基の建物のみです。この時代の苦難の歴史は、寺院の現状を見れば痛いほど伝わってきます。

寺院の構造と特徴

エルデニ・ゾーの寺域は、420m×420mの広大な敷地に広がり、白い仏塔と外壁で囲まれています。その特徴は、各角に2つ、各辺に25ずつ配置された、合計108基もの白い仏塔です。この数には、仏教における特別な意味が込められていると考えられています。

境内には、ソボルガン塔と呼ばれる巨大な仏塔がそびえ立っています。この塔は、堕落した僧侶たちを戒めるためのものだと伝えられています。また、ラブラン・ゾーと呼ばれる建物は、18世紀に信者たちの寄進によって完成したもので、寺院の歴史を語る上で重要な建造物です。

博物館と研究

エルデニ・ゾーの寺域外には、カラコルム博物館があります。この博物館では、エルデニ・ゾーだけでなく、この地域全体の通史的な展示が行われており、歴史を深く理解するための貴重な資料が数多く収蔵されています。エルデニ・ゾーに関する研究は現在も続けられており、その歴史的・文化的意義を明らかにするための様々な試みがなされています。村岡倫氏による「モンゴル国最古のチベット仏教寺院 エルデニゾー研究の現状とその意義」などの研究論文も発表されており、今後も更なる研究の発展が期待されます。

エルデニ・ゾーは、単なる寺院ではなく、モンゴルの歴史、文化、宗教を象徴する貴重な遺産です。その歴史的変遷、建築様式、そしてそこに込められた思想は、私たちに多くのことを語りかけてくれます。今後も、この貴重な遺産が大切に保護され、未来へと継承されていくことを願ってやみません。

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