エルミオーネ

ロッシーニ 歌劇『エルミオーネ』

『エルミオーネ』（イタリア語: Ermione）は、ジョアキーノ・ロッシーニが作曲した2幕からなる歌劇であり、1819年にナポリで初演されました。原作はジャン・ラシーヌの『アンドロマック』(1667年)です。

概要

物語はエウリピデスの悲劇『アンドロマケー』に想を得ていますが、直接的な原作ではなく、ラシーヌによる翻案版『アンドロマック』を元に、アンドレア・レオーネ・トットラが台本を執筆しました。ラシーヌはエウリピデスの原作に大幅な変更を加えており、トットラもそれに準拠しています。ラシーヌの劇との大きな違いは、物語の重点がアンドロマカ（アンドロマケー）からエルミオーネ（ヘルミオネー）に移されている点と、オレステ（オレステース）の人格描写にあります。

1819年3月27日にナポリのサン・カルロ劇場で初演されましたが、著名な歌手を擁しながらも不評に終わりました。その後、長らく忘れ去られていましたが、1977年にシエーナで演奏会形式で再演され、1987年のペーザロ・ロッシーニ音楽祭での舞台上演を機に、その芸術性が再認識されるようになりました。1990年代以降は、大規模なリバイバル上演が相次いで行われています。

登場人物

アンドロマカ（アンドロマケー、アルト）：トロイアの将軍ヘクトールの未亡人。
アスティアナッテ（アステュアナクス、黙役）：ヘクトールの遺児。
ピッロ（ネオプトレモス、テノール）：エピルス王、アキレウスの子。
エルミオーネ（ヘルミオネー、ソプラノ）：ピッロの婚約者、ヘレネーの娘。
オレステ（オレステース、テノール）：ギリシアからの使者、アガメムノンの子。エルミオーネに恋心を抱くが、報われない。
ピラーデ（ピュラデース、テノール）：オレステの友人。
フェニーチョ（ポイニクス、バス）：ピッロの師。
クレオーネ（ソプラノ）：エルミオーネの親友。
チェフィーザ（ソプラノ）：アンドロマカの親友。
アッターロ（テノール）：ピッロの家臣。

あらすじ

舞台はエピルス王ピッロの宮殿。トロイア戦争でトロイアの将軍ヘクトールはアキレウスに討たれ、トロイアは陥落、人々は捕虜となっていました。失われた栄光を嘆く彼らの合唱が、劇の冒頭を飾ります。

第1幕

捕虜たちの前に現れたアンドロマカは、息子アスティアナッテに亡き夫の面影を見る（カヴァティーナ「Mia denizia!」）。しかし、彼女は息子から引き離されてしまいます。

エルミオーネは、ピッロの心がアンドロマカに向いていることに激怒します。ピッロと激しく言い争いますが（二重唱「Non proseguir! comprendo」）、ピッロの決意は変わりません。そこへ、オレステがギリシアからの使者としてエピルスに到着したことが告げられます。

オレステはエルミオーネへの抑えきれない恋心を抱きつつ登場しますが（Reggia abborrita!）、ピラーデにたしなめられます（二重唱「Ah! come nascondere」）。オレステはピッロに対し、アスティアナッテを生かしておけば復讐されるだろうと進言し、殺害を求めます。これに対しピッロは激怒し、捕虜の処遇はアキレウスの息子である自分が決めることだと拒否します。さらに、アンドロマカに求愛し、エルミオーネを捨てることを宣言するのです（Balena in man del figlio）。

エルミオーネが一人でいるところにオレステが現れ、苦しい愛を訴えます。ピッロは一同を集め、アスティアナッテをギリシア人に引き渡すことに同意します。これはピッロの策略でしたが、息子を救うため、アンドロマカはやむなくピッロに屈しようとします。エルミオーネは激怒し、他の登場人物もそれぞれの立場を歌い、幕が閉じられます。

第2幕

アンドロマカが結婚を承諾したことで有頂天になったピッロは、アスティアナッテを自分の子として育てることを決めます（アンドロマカとピッロの二重唱「Ombra del caro sposo」）。アンドロマカは、息子の安全が確保されたら、亡き夫への貞節を守るために自害しようと決意します。

エルミオーネが現れ、アンドロマカを侮辱します。アンドロマカが去ると、エルミオーネは彼女が結婚式に向かったと考え嘆きますが、ピッロへの未練を断ち切れず、自分の愛を伝えるようにフェニーチョに頼みます（Essa corre al trionfo!）。クレオーネに対しても、エルミオーネは傷ついた愛を歌います（Amata, l'amai）。ピッロとアンドロマカの婚礼の合唱が聞こえてくると、エルミオーネは絶望し（Un'empia mel rapì!）、復讐を誓います。

エルミオーネはオレステに短剣を渡し、自分への愛の証としてピッロを殺すよう唆します。オレステが去った後、エルミオーネは激しいカバレッタを歌います（Se a me nemiche o stelle）。

ピッロがアスティアナッテを殺さなかったことに怒ったギリシアが、エピルスに攻め込むことをピラーデはフェニーチェに告げます（二重唱「A così trista immagine」）。

エルミオーネは、自分が本当に望んでいたのはピッロを後悔させることであり、殺すことではなかったと後悔します。オレステが現れ、アスティアナッテを王位継承者としたことに激怒したギリシア人たちがピッロを襲撃したことを伝え、彼を刺した血まみれの短剣をエルミオーネに渡します。しかし、エルミオーネはなおもオレステではなくピッロを愛し続けており、復讐の女神の名を呼び、オレステを滅ぼすことを願います。王を殺されたエピルス人たちが復讐のために立ち上がりますが、ピラーデたちは絶望するオレステを連れて逃げ出します。エルミオーネは気を失ってしまうのです。

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