エルンスト・ハインリヒ・フォン・ザクセン

エルンスト・ハインリヒ・フォン・ザクセン：激動の時代を生き抜いた王族の生涯

エルンスト・ハインリヒ・フォン・ザクセン（1896年12月9日 - 1971年6月14日）は、ザクセン王国の王族として、激動の20世紀を駆け抜けました。彼の生涯は、二つの世界大戦、ヴァイマル共和国の興亡、そしてナチス・ドイツの台頭と崩壊という、ヨーロッパの激動の歴史と深く結びついています。

幼少期と第一次世界大戦

最後のザクセン王フリードリヒ・アウグスト3世の息子として生まれたエルンスト・ハインリヒは、ドレスデン、ピルニッツ、モーリッツブルクといった王室の宮殿で、何不自由なく幸福な幼年時代を過ごしました。しかし、1902年に母ルイーゼが家族を捨てて出奔するという事件が起こります。その後、第一次世界大戦が勃発すると、エルンスト・ハインリヒはドイツ帝国軍に従軍。当初は幕僚部付き将校として、後にソンムの戦いや東部戦線に参加し、勇敢に戦いました。

戦間期：政治への関与と結婚

第一次世界大戦後、エルンスト・ハインリヒはザクセン王家の所領経営に携わる傍ら、政治活動にも関与します。カップ一揆への関与を経て、ミュンヘンに逃れ、バイエルン王太子ループレヒトと親交を深めます。1921年にはルクセンブルク大公女ソフィーと結婚。ソフィーとの結婚生活は幸福で、3人の息子に恵まれました。しかし、エルンスト・ハインリヒは最初からアドルフ・ヒトラーやエーリヒ・ルーデンドルフの指導する国家社会主義運動を拒絶しました。

ナチス・ドイツ時代：抵抗と亡命

ナチ党が権力を掌握すると、エルンスト・ハインリヒは保守主義の鉄兜団に入って抵抗運動を試みますが、鉄兜団はナチ党の影響下に置かれており、その活動は限定的でした。1934年には長いナイフの夜事件に連座して逮捕され、強制収容所に拘禁されます。その後はモーリッツブルク宮殿で隠遁生活を送りますが、反ナチスの政治家カール・ゲルデラーを自宅に招き入れるなど、密かに反ナチ活動を継続しました。第二次世界大戦末期には、ケーテ・コルヴィッツを自宅に匿い、保護しています。赤軍の侵攻が迫ると、ザクセン王家の文化財を庭園に埋めてジグマリンゲンに避難しました。

戦後：アイルランドでの余生と遺産

戦後、エルンスト・ハインリヒは1941年に死別した妻ソフィーに代わり、女優のジーナ・デュロンと再婚。アイルランドに移住し、クーランバーの地所を購入して余生を送りました。故郷ザクセンに戻ることなく、1971年に西ドイツで亡くなりました。彼がモーリッツブルク宮殿の庭園に埋めた文化財の一部は、1995年に掘り起こされ、その歴史的価値が再認識されました。

エルンスト・ハインリヒ・フォン・ザクセンの生涯は、激動の20世紀を生き抜いた王族の苦悩と抵抗、そして文化遺産を守り抜いた誇りを示すものとして、今もなお語り継がれています。

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