エルンスト・バルラハ

エルンスト・バルラハ（1870年1月2日 - 1938年10月24日）は、20世紀ドイツの表現主義を代表する芸術家であり、彫刻、絵画、戯曲など幅広い分野で才能を発揮しました。彼は、第一次世界大戦への初期の賛同から一転、戦争の悲惨さを体験し、反戦的な作品を多く残したことで知られています。しかし、その作風はナチス政権下で「退廃芸術」とみなされ、多くの作品が没収、破壊されるという悲劇に見舞われました。

生涯

1870年、ドイツのヴェーデルで医師の息子として生まれたバルラハは、幼少期に一家で何度か引っ越しを経験しました。1884年に父を亡くした後、1888年からハンブルクの職業学校に通い、才能を認められて1891年から1895年までドレスデン王立美術学校で彫刻を学びました。この頃の代表作に「ハーブを摘む女」があります。

1896年から1年間、パリのアカデミー・ジュリアンで学びますが、フランスのスタイルを模倣することに批判的な姿勢を持ちました。1897年にもパリで数ヶ月間研鑽を積みました。その後、故郷に戻り戯曲の執筆を試みる一方で、ハンブルクの製陶工房でアール・ヌーヴォー様式の彫刻家として活動しました。また、アール・ヌーヴォー雑誌「ユーゲント」にイラストを提供したり、製陶学校で素描教師を務めたりもしました。1904年にはベルリンで初の個展を開催しています。

表現主義への転換

1906年、商業的な成功に悩んでいたバルラハは、弟と共にロシアへ旅行し、これが彼の作風に大きな影響を与えました。この旅行中に息子ニコラスが誕生しますが、2年にわたる裁判の末、親権を獲得しました。ロシア旅行後、画商のパウル・カッシーラーらの支援を受けて経済的に安定し、表現主義的なスタイルを発展させました。それは顔や手に焦点を当て、他の部分を抑えるという独特のものでした。また、初期ゴシック様式の影響を受けた木像や銅像も制作し始めました。風刺雑誌「ジンプリチシムス」にイラストを提供し、文学作品も執筆するなど、多岐にわたる活動を展開しました。1910年にはギュストロウに居を定め、生涯をここで過ごしました。

第一次世界大戦勃発当初、バルラハは熱烈な戦争支持者であり、戦争による新たな芸術の誕生を期待していました。1914年の銅像「復讐者」はその象徴と言えるでしょう。しかし、1915年から1916年にかけて兵役を経験したことで、戦争の悲惨さを目の当たりにし、反戦主義者へと転向しました。戦場での恐怖体験は、その後の彼の作品に大きな影響を与えました。

芸術家としての成功と迫害

終戦後、バルラハは名声を高め、多くの賞を受賞しました。1919年にはプロイセン芸術アカデミー、1925年にはミュンヘン芸術アカデミーの会員に選ばれましたが、学位や教授職は辞退しました。戯曲「死の日」、「哀れな従兄弟」などが初演されるなど、劇作家としても活躍しました。この頃、彫刻家のベルンハルト・ベーマー夫妻と知り合い、ベーマーは後にバルラハの秘書兼画商となり、ナチスによる迫害時代には作品の保護に尽力しました。また、マルガ夫人はバルラハの生涯の伴侶となりました。

しかし、1928年以降、バルラハが戦争体験に基づいた反戦的な作品を制作し続けるにつれて、ナチズムの台頭とともに作品は批判の対象となっていきました。例えば、「マクデブルク戦没者記念碑」は、英雄的なドイツ兵を描くことを期待されて制作を依頼されましたが、バルラハは戦争の恐怖と痛みに苦しむ兵士たちの姿を描きました。この作品は、戦争支持者から激しい非難を浴び、1934年に撤去されました。その後、ベーマーが買い取って保護し、戦後にマクデブルク大聖堂に設置されましたが、バルラハへの攻撃は亡くなるまで続きました。

1936年には、ケーテ・コルヴィッツ、ヴィルヘルム・レームブルックとの展覧会が開催されましたが、多くの作品が没収されました。バルラハは作品制作を禁じられ、芸術アカデミーの会員資格も剥奪されました。1937年には、全ての美術館から作品が撤去され、ミュンヘンの「退廃芸術展」では銅像「再会」が晒しものにされました。また、ギュストロウ戦没者記念碑は撤去され、銅像は軍事目的で溶かされました。現在、ケルンとギュストロウにある像は復元されたものです。

1938年3月にはハンブルク戦没者記念碑も撤去され、同年10月24日、バルラハはロストックで脳溢血のため死去しました。死後、ニューヨークで記念展覧会が開催され、ロンドンでの「20世紀ドイツ芸術展」にも作品が展示されました。

死後の名誉回復

戦後、バルラハの作品は名誉を回復し、1950年には「ハンブルク戦没者記念碑」、1953年には「ギュストロウ戦没者記念碑」が復元され、元の場所に設置されました。しかし、一部の市民からは反対の声も上がったといいます。

主な作品

「ハーブを摘む女」（1894年）
「座った女」（1908年）
「忘我」（1911-12年）
「復讐者」（1914年）
「再会」（1926年）
「ギュストロウ戦没者記念碑」（1927年）
「漂う天使」（1927年）
「歌う男」（1928年）
「闘う天使」（1928年）
「マクデブルク戦没者記念碑」（1929年）
「杖をついた物乞い」（1930年）
「ハンブルク戦没者記念碑(母と子)」（1931年）
「読書する人」（1936年）

美術館

ハンブルクのイェーニシュ公園内にあるエルンスト・バルラハ・ハウスには、多くのバルラハ作品が収蔵・展示されています。

参考文献

関楠生　『ヒトラーと退廃芸術』　河出書房新社、1992年、ISBN 430922234X

外部リンク

ハンブルク・エルンスト・バルラハ協会
エルンスト・バルラハ・ハウス
* Bibliography of Secondary Literature

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