パウル・カッシーラー

パウル・カッシーラー（1871年2月21日 - 1926年1月7日）は、ドイツの美術商であり、出版業者としても活躍しました。彼は、特にベルリン分離派の活動を支援し、フランスの印象派やポスト印象派の作品、中でもフィンセント・ファン・ゴッホやポール・セザンヌの作品をドイツに紹介したことで知られています。

生涯

パウル・カッシーラーは、1871年にケーブル製作会社の技師であるルーイー・カッシーラーの息子として生まれました。彼の家系はユダヤ系であり、哲学者エルンスト・カッシーラーも親族にあたります。若い頃はミュンヘンで文筆家として活動し、1890年代には小説を2冊出版したほか、風刺雑誌『ジンプリツィシムス』に記事を寄稿していました。

ブルーノとの画廊経営

1898年、パウルは従兄弟のブルーノ・カッシーラーと共にベルリンのヴィクトーリア通りに画廊を開きました。当時、ドイツではまだ珍しかった印象派の絵画を扱い始め、画廊の内部はベルギーの建築家アンリ・ヴァン・デ・ヴェルデが設計し、華美な装飾を避けたモダンな空間でした。当時のベルリンは、ドイツ帝国の首都として急速に発展しており、美術市場もミュンヘンからベルリンへと移行しつつありました。パウルは、エドゥアール・マネ、クロード・モネ、ポール・セザンヌ、フィンセント・ファン・ゴッホ、ポール・ゴーギャンといった印象派・ポスト印象派の画家たちの作品をドイツに紹介しました。また、ベルリン分離派の活動を支援し、ロヴィス・コリント、マックス・リーバーマン、レッサー・ユリィ、エルンスト・バルラハなどの作品も扱いました。彼は、友人のハリー・ケスラー伯爵と共に、モダニズム絵画を支持する美術関係者のサークルを形成し、展覧会の開催や作品の購入、モダニズムを広めるための記事執筆など、当時のアカデミズム絵画に対抗する活動を展開しました。1900年には、アンブロワーズ・ヴォラールがパリで初のセザンヌ個展を開催してからわずか5年後に、ドイツで初めてセザンヌ展を開催し、1901年にはパリのベルネーム＝ジューヌ画廊がゴッホの回顧展を行った同じ年に、ドイツで初めてのゴッホ展を開催しました。

パウルとブルーノは、画廊経営と並行して出版業も行っており、ヴァン・デ・ヴェルデや美術館長フーゴ・フォン・チューディ、アルフレート・リヒトヴァルク、ヴィルヘルム・フォン・ボーデなどの著作を出版しました。

パートナーシップ解消後

1901年、パウルはブルーノとのパートナーシップを解消し、パウルは画廊経営とベルリン分離派の事務局長を継続しました。ブルーノは出版社を引き継ぎ、1901年に雑誌『芸術と芸術家』を創刊しました。1903年、パウルはエドヴァルド・ムンク、ピエール・ボナール、エドゥアール・ヴュイヤール、エドガー・ドガ、クロード・モネの作品に加え、当時評価され始めていたフランシスコ・デ・ゴヤやエル・グレコの展覧会を開催しました。しかし、保守的なメディアからは、反ユダヤ主義的な攻撃も受けました。

1908年、パウル・カッシーラーは自身の出版社（パウル・カッシーラー・フェルラーク）を開業し、フランツ・マルクの書簡集やマックス・フリートレンダーの『初期ネーデルラント絵画』全14巻などを出版しました。ゴッホの作品を相続した義妹ヨハンナ・ファン・ゴッホ＝ボンゲルの信頼を得て、ドイツでゴッホの作品を数多く販売することに成功しました。1910年にはヨハンナとの間で、ゴッホの手紙のドイツ語訳出版の契約を結び、1914年に出版しました。

1910年から1912年にかけて、パウルは雑誌『パーン』を発行し、表現主義の美術や文学を支持する立場を明らかにしました。また、1910年には舞台女優のティラ・デュリューと結婚しました。

晩年

第一次世界大戦では、パウルはベルギーで従軍し、1914年から1916年にかけて愛国主義的な雑誌を発行していましたが、次第に反戦主義・社会主義に傾倒していきました。1920年のアドルフ・ヒトラーの演説では、国家社会主義に抵抗する資産家として攻撃されました。1922年には、出版社の財政難により売却を余儀なくされました。1926年1月7日、妻ティラとの離婚協議中に拳銃で自殺しました。

パウル・カッシーラーは、美術商、出版業者として、ドイツの美術界に大きな影響を与えた人物です。特に、印象派やポスト印象派の絵画をドイツに広めた功績は大きく、その活動は現代においても評価されています。

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