エル・シッド

エル・シッド：中世スペインの英雄

ロドリーゴ・ディアス・デ・ビバール（通称エル・シッド）は、11世紀後半のレコンキスタ（国土回復運動）で活躍したカスティーリャ王国の貴族です。彼の名は、叙事詩『わがシッドの歌』の主人公としても広く知られています。

エル・シッドという名前

「シッド」という名は、アラビア語アンダルス方言で「主人」を意味する「スィーディー」に由来します。当時、身分のある人物への敬称として用いられていましたが、後にロドリーゴの通称として定着しました。彼は「エル・シッド・カンペアドール」とも呼ばれ、「カンペアドール」とは「戦場の勇者」を意味します。

生涯

誕生と出自

エル・シッドは、1043年から1045年の間にブルゴスの北にあるビバールという小さな町で生まれたと考えられています。父ディエゴ・ライネスは軍人であり、その縁から、若き日のシッドはサンチョ2世付きの小姓としてカスティーリャ王家で育ちました。1063年のグラウスの戦いでは、サンチョ2世と共に参戦しています。

サンチョ2世の死と追放

1065年にフェルナンド1世が亡くなると、王国は息子たちに分割相続されました。サンチョ2世はカスティーリャ王国を受け継ぎましたが、領土の再統一を目指して弟たちとの戦争を開始しました。シッドはサンチョ2世の下で活躍しますが、1072年にサンチョ2世は暗殺されます。

サンチョ2世の暗殺後、弟のアルフォンソ6世が王位を継承すると、シッドはカスティーリャから追放されます。追放は生涯で2度（または3度）行われ、2回目の追放は、イスラム勢力に苦戦するアルフォンソを救ったにもかかわらず、「援軍が遅い」という理由によるものでした。追放の原因は、アルフォンソ6世がシッドにサンチョ暗殺への関与を否定する宣誓をさせたことを根に持っていたため、あるいはシッドの武勲により民心がシッドに集まることを恐れたためとも言われています。

バレンシアの征服と晩年

追放後もシッドを慕う兵士たちは多く、彼はバレンシアの征服に乗り出します。1094年、バレンシアをイスラム教徒から奪還し、妻子を呼び寄せました。その後5年間バレンシアを統治し、その地で亡くなりました。生前からシッドを題材とした叙事詩が作られ、彼は満足げに聴いていたと伝えられています。

叙事詩によれば、シッドは死期を悟り、自ら絶食し、死体を保存して台座に座らせた姿で長年安置されていたといいます。その後、愛馬バビエカに乗せられて巡行しましたが、ミイラの鼻がもげたことをきっかけに、バビエカの墓のそばに埋葬されたとされています。

1099年のシッドの死後、妻ヒメナが統治を引き継ぎますが、数年で領地は失われ、その後100年以上キリスト教徒がバレンシアを奪還することはできませんでした。

エル・シッドの剣

エル・シッドが使用した剣「ティソーナ」は、かつてマドリードの軍事博物館に展示されていましたが、現在はブルゴス博物館に所蔵されています。刃は11世紀にムーアのコルドバで製造されたダマスカス鋼であることが判明しています。もう一振りの剣「コラーダ」も同様であると考えられています。

エル・シッドとイスラム教徒

エル・シッドは、レコンキスタの英雄として知られていますが、実際にはイスラム教徒とも親交があり、追放中はサラゴサのタイファに仕え、アラゴン王国への侵攻を指揮したこともあります。

創作におけるエル・シッド

わがシッドの歌

12世紀後半から13世紀初頭に成立した英雄叙事詩で、エル・シッドの活躍を描いています。3,700を超える詩からなり、3つの部分に分けられます。

Cantar del Destierro（追放の歌）
Cantar de las Bodas（婚礼の歌）
Cantar de la Afrenta de Corpes（コルペスの屈辱の歌）

その他の創作

ピエール・コルネイユによる悲喜劇『ル・シッド』や、ジュール・マスネ作曲のオペラ『ル・シッド』など、様々な作品にエル・シッドが登場しています。

子女

ディエゴ・ロドリゲス
クリスティーナ・ロドリゲス：ナバラ王ガルシア6世の母
マリア・ロドリゲス：バルセロナ伯ラモン・バランゲー3世と結婚

エル・シッドは、中世スペインの歴史と文化に大きな影響を与えた人物であり、その名は今もなお語り継がれています。

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