エレガンスアッキー

エレガンスアッキー（Elegance Acky）は、かつて日本国有鉄道（国鉄）およびその承継会社である東日本旅客鉄道（JR東日本）が、1985年（昭和60年）から1997年（平成9年）にかけて運用した鉄道車両（気動車）です。団体の多人数輸送やレジャー用途に特化した「ジョイフルトレイン」の一員として親しまれました。

開発背景とコンセプト

開発を手掛けた国鉄秋田鉄道管理局（秋田局）では、既に和式（お座敷）気動車を運用していましたが、主に年配層の利用が中心でした。そこで、より幅広い層、特に若年層や職場旅行といった需要を取り込むため、従来のイメージとは異なる洋風の内装を持つ新型気動車を開発する方針が打ち出されました。これは、当時の団体旅行市場で人気を集めていたデラックス観光バスに比肩しうる、質の高い快適性とサービスを提供する車両を目指すものでした。

車両愛称の「アッキー」は、秋田局の販売促進用マスコットキャラクターに由来します。国鉄のジョイフルトレインとしては、初めてマスコットキャラクター名が愛称として採用された画期的な例となりました。

車両概要

エレガンスアッキーは3両編成で組成されました。種車にはキハ28形およびキハ58形気動車が充当され、土崎工場でそれぞれキロ59形500番台とキロ29形500番台へと改造されました。具体的な車両番号は以下の通りです。

1号車：キロ59 503（旧キハ58 1517）
2号車：キロ29 502（旧キハ28 2408）
3号車：キロ59 504（旧キハ58 1532）

組成される全ての車両がグリーン車として扱われました。

外観

内装は大幅な改造が施された一方、車体外観は種車の面影を多く残しています。各車両とも乗務員室直後の出入口扉を埋め、代わりに小窓を設けた程度の変更に留まりました。

外部塗装は職員による公募デザインが採用されました。気動車らしいシルエットを保ちつつ、秋田局独自の個性を出すため、クリーム1号を基調に赤7号、赤1号、朱色3号といった赤系3色の帯がグラデーションのように配された大胆なデザインが特徴です。

前面の貫通扉上には愛称表示機が設けられ、団体名や列車名が表示可能であったほか、「アッキー」キャラクターをデザインした専用のヘッドマークも用意されていました。

内装

エレガンスアッキーの最大の特色は、当時の気動車としては斬新な洋風の内装でした。

客室内

床構造: 客室フロアは床面を100mmかさ上げした「ハイデッキ」構造が採用されました。床下には防振ゴムが挿入され、走行時の振動や騒音の抑制が図られています。デッキから客室への通路は緩やかなスロープとされました。
照明: 従来の40ワット形蛍光灯にはカバーが取り付けられ、柔らかい光になりました。加えて、アクセントとして160ワットのシャンデリア風灯具が客室内に2箇所配されました。また、2人掛け席側の窓上には終夜灯も設けられています。
荷物棚・カーテン: 荷物棚は種車のものが全て撤去され、1人掛け席側の窓上のみに新規に設置されました。側窓のカーテンは、巻き取り式から操作性の良い横引き式へと変更されました。
床材: 客室全体の床は暖かみのある絨毯張りでしたが、通路部分は土足での使用やメンテナンス（モップ掛け、水洗い）を考慮し、耐久性のあるビニール製敷物が採用されました。
座席: 座席には快適性の高い回転式リクライニングシートが採用され、シートピッチ1160ミリで2列＋1列のゆったりとした配置とされました。1人掛け席は45度刻みで360度、2人掛け席は180度の回転が可能で、向かい合わせの配置も容易でした。特に2人掛け席の脚台下部には、3名分の靴を収納できるスペースが設けられ、利便性が高められています。
サービス設備: 各車両にはサービス設備として、カラオケ機器とビデオ装置が搭載されました。これらの機器は乗務員室側の客室端部に集約され、天井に設置されたビデオプロジェクターが、仕切り壁に取り付けられた50インチスクリーンに映像を投影する仕組みとなっていたため、車内で映像やカラオケを楽しむことが可能でした。

客室外

洗面所・化粧室: 洗面所には新たに冷水機が設置され、洗面台や鏡も洋風デザインのものに交換されました。さらに、カーテンを設けることで、着替えなどに便利な簡易的な更衣室としても利用できるよう配慮されました。
デッキ扉: デッキと客室を隔てる仕切り扉は自動ドアが採用され、乗降の利便性が向上しました。
添乗員室: 乗務員室に隣接するデッキ部分は扉が閉鎖され、添乗員室兼用の荷物室へと改修されました。ここにはビデオラックや荷物棚が設置され、運転席側には添乗員が利用できるテーブルも設けられました。閉鎖された扉の跡には小窓が設置されています。

その他機器

サービス機器への電力供給のため、乗務員室助士席側の床下には容量1kVAの静止型インバータが搭載されました。サービス電源の制御スイッチは乗務員室運転席側、配電盤は添乗員室にそれぞれ設置されました。

キロ29形では、種車で座席下に配置されていた一部配管を床下に移設し、また発電機関の冷却風取り入れ口も床下に変更することで、車内外の騒音抑制に努める改良が施されています。

運用と終焉

エレガンスアッキーは、1985年10月14日に営業運転を開始しました。秋田局が想定した若年層だけでなく、むしろ年配層の利用が多いという傾向も見られたようです。

団体専用列車としての運用が主体でしたが、年末年始や夏季などの多客期には臨時列車にも充当されました。特に1988年（昭和63年）から1989年（平成元年）にかけての年末年始や1989年夏には、秋田〜仙台間を北上線経由で結ぶ全車グリーン指定席の快速「やまどり」として運行され、その存在が広く知られることとなりました。

その後も運行が継続され、エンジンの換装なども経て使用されましたが、登場から12年後の1997年（平成9年）にその役目を終え、廃車となりました。

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