エンシスハイム隕石

エンシスハイム隕石：ヨーロッパ最古の目撃記録を持つ隕石

1492年11月7日、フランスのエンシスハイム近郊に、大きな隕石が落下しました。このエンシスハイム隕石は、ヨーロッパで最も古い、その落下が目撃された隕石として知られています。

衝撃的な落下と当時の反応

正午頃、激しい光と轟音とともに、隕石は高速で大気圏に突入しました。その衝撃波は、ドナウ川、ネッカー川、アーレ川、ライン川の流域にまで及び、150キロメートル以上離れたスイスでも聞こえたと伝えられています。

落下地点は小麦畑で、隕石は1メートルもの深さの穴を地面に開けました。当初の重さは127キログラム、三角錐のような形をしていたとされます。発見後、多くの人々が隕石を削り取りましたが、神聖ローマ皇帝フリードリヒ3世の息子であるマクシミリアンによって、その保存が決定されました。

芸術と文化への影響

この出来事は、人々の記憶に深く刻み込まれ、様々な文化的作品に影響を与えました。

有名な風刺作家ゼバスティアン・ブラントは、隕石落下を題材にした詩を書き、チラシとして広く配布しました。この詩は、隕石の一部とともに、後に教皇となるピッコロミニ枢機卿にも送られたと言われています。

また、著名な画家アルブレヒト・デューラーは、1494年の作品『荒野の聖ヒエロニムス』の裏面に、流星あるいは彗星のような天体現象を描いています。これは、彼がエンシスハイム隕石による火球を目撃し、描いたものだという説もあります。さらに、ハルトマン・シェーデルの『ニュルンベルク年代記』(1493年刊)にも、この隕石落下の様子が描かれています。

現状とその後

現在、エンシスハイム隕石の53.831キログラムの破片が、エンシスハイムの市立博物館に展示されています。他にも、ヨーロッパ各地の博物館に、切り取られた小さな破片が多数保存・展示されています。

エンシスハイム隕石は、単なる科学的な標本にとどまらず、歴史、芸術、文化など様々な分野に影響を与えた、貴重な存在なのです。その落下は、人々に宇宙の神秘と畏怖を感じさせ、中世ヨーロッパの人々の世界観に大きなインパクトを与えた出来事だったと言えるでしょう。

関連事項

エンシスハイム隕石と同様に、歴史的な記録に残る隕石としては、日本の直方隕石（861年）などが挙げられます。

参考情報

Meteorite.fr - Basics - Meteorites in History (英語)
Meteoritical Bulletin Database: Ensisheim (英語) - 切り取られた隕石の画像あり

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