エンドセリン

エンドセリン (Endothelin)

エンドセリンは、血管内皮細胞から生成されるペプチドであり、強力な血管収縮作用を持つオータコイドの一種です。血管の機能において重要な役割を果たしており、生命活動にとって欠かせない物質です。

発見の歴史

エンドセリンは、1988年に筑波大学で活動していた研究者たちによって初めて発見されました。この研究チームには、当時大学院生だった柳沢正史氏、眞崎知生教授、またグループリーダーの後藤勝年氏が含まれていました。彼らは、ブタの大動脈から培養した血管内皮細胞の上清を用いてこの生理活性物質を単離、精製し、さらに遺伝子の同定に成功しました。これらの研究によって、エンドセリンはラットに投与されると1時間以上持続する強力な昇圧効果を示し、その様子は「ラットは血の涙を流した」として知られることとなりました。

構造と生理作用

エンドセリンは、21個のアミノ酸から構成され、分子内に2つのジスルフィド結合を持っています。このペプチドは、前駆体からプロセッシングされて生成されるもので、哺乳類においてはET-1、ET-2、ET-3という3種類の異なるアイソペプチドが存在します。それぞれ異なる遺伝子によってコードされており、機能にも微妙な違いがあります。

エンドセリンは、初めに一過性の血管拡張作用を示した後、持続的な血管収縮作用を引き起こします。しかしながら、ET-3は他の2つの異性体に比べて血管拡張作用が弱いことが特徴です。エンドセリンの作用は、受容体によって調節され、主にETA受容体とETB受容体の2種類が確認されています。ETA受容体は、ET-1およびET-2に高い親和性を持ち、主に血管収縮を引き起こします。一方、ETB受容体は3種のアイソペプチドに対して同等の親和性を示し、主に血管内皮での一酸化窒素(NO)の放出を通じた血管拡張に寄与していると考えられていますが、一部の血管ではETB受容体も血管収縮に関与していることが報告されています。

疾患との関連

エンドセリンは肺高血圧や心不全、腎不全といった様々な病態に関連していると指摘されています。特に、エンドセリン受容体拮抗薬「ボセンタン」は、肺動脈性肺高血圧症の治療に使用されています。これにより、エンドセリンの過剰な作用を抑えることで、患者の症状を軽減することが可能となります。

さらに、エンドセリンは神経堤由来組織の胚発生にも重要な役割を果たすことが示唆されています。特にETB受容体の異常は、ヒルシュスプルング病やワールデンブルグ症候群に関連していることが報告されており、エンドセリンの機能に関するさらなる研究が期待されています。

エンドセリンに関する研究が進むことで、これらの疾患の理解が深まり、新たな治療法の開発に繋がる可能性があります。

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