エンパイア・ピクチャーズ

エンパイア・ピクチャーズの軌跡

エンパイア・ピクチャーズ（Empire International Pictures）は、アメリカにかつて存在した独立系の映画製作及び配給会社です。このプロダクションは、著名な映画監督アルバート・バンドの息子であるチャールズ・バンドによって、1983年に創設されました。チャールズ・バンド自身も積極的に映画製作に携わり、監督としても数多くの作品でメガホンを取りました。エンパイアが手がけた作品は、主に低予算ながらも独特のアイデアに満ちたホラー、サイエンス・フィクション、ファンタジーといったジャンルのB級映画群です。これらの作品は、カルト的な人気を博したものも少なくありません。

設立と活動の特色

1980年代、大手スタジオ主導のハリウッドにおいて、エンパイア・ピクチャーズはインディーズの旗手として活動を開始しました。彼らの作品は、時にグロテスク、時にユーモラスなクリーチャーが登場したり、斬新ながらも荒削りな視覚効果を用いたりすることが特徴でした。短期間のうちに多くの作品が企画・製作され、ビデオマーケットの拡大とも相まって、一部の映画ファンの間で認知されるようになりました。チャールズ・バンドは自社の作品を通じて、自身の好みや作家性を色濃く反映させました。

代表的な作品群

エンパイア・ピクチャーズは精力的に映画を製作しましたが、すべての企画が実現したわけではなく、また商業的に大きな成功を収めた作品は限定的でした。しかし、今日に至るまで語り継がれる個性的な作品を多数生み出しています。特にホラーやクリーチャー映画において、その存在感を示しました。

以下に主な代表作を挙げます。

フロム・ビヨンド（From Beyond, 1986）：H.P.ラヴクラフト原作を映画化したSFホラー。
テラービジョン（TerrorVision, 1986）：テレビを通じてモンスターが侵入するというユニークな設定のホラーコメディ。
ドールズ（Dolls, 1987）：生命を持った人形たちが人間を襲う恐怖を描くゴシックホラー。
パペット・マスター（Puppet Master, 1989）：人形たちが活躍する人気ホラーシリーズの記念すべき第一作。
SFゾーン・トゥルーパーズ（Zone Troopers, 1985）：第二次世界大戦下の兵士たちが宇宙人と遭遇するSF。
SFソードキル（Ghost Warrior, 1984）：現代に蘇ったサムライの活躍を描き、日本の俳優・藤岡弘がハリウッドで初主演を果たした作品。
トロル（Troll, 1986）：ファンタジー映画『ネバーエンディング・ストーリー』で注目を集めた子役ノア・ハザウェイが主演を務めたファンタジーホラー。
ZOMBIO/死霊のしたたり|ZOMBIO_死霊のしたたり（Re-Animator, 1985）：ラヴクラフト原作を自由奔放にアレンジした、カルト的な人気を誇るスプラッターコメディホラー。
トランサーズ/未来警察2300（Trancers, 1985）：未来から過去へやってきた刑事が悪党を追うSFアクションシリーズの端緒。
グーリーズ（Ghoulies, 1985）、グーリーズII（Ghoulies II, 1987）：地下から現れたクリーチャー「グーリーズ」が巻き起こす騒動を描いたホラーコメディ。
* ロボ・ジョックス（Robot Jox, 1990）：巨大ロボットが戦うSFアクション。特撮に多額の費用が投じられたことで知られます。

経営の悪化と倒産

短期間に多数の作品を製作する積極的な経営は、エンパイア・ピクチャーズに大きな負担をかけました。特に、VFXを多用した一部の大型企画、例えば『ロボ・ジョックス』のような作品に投じられた高額な製作費が、経営を圧迫する大きな要因となりました。これらの費用を回収しきれず、エンパイアは設立からわずか数年後の1989年頃に、残念ながら倒産という結末を迎えます。

後継プロダクションへ

エンパイア・ピクチャーズは消滅しましたが、チャールズ・バンドの映画製作への情熱は尽きませんでした。彼はすぐに新たな会社、フルムーン・ピクチャーズ（Full Moon Features）を設立し、エンパイア時代と同様にホラーやSFを中心とした低予算映画の製作を再開しました。フルムーンは特にホームビデオ市場で成功を収め、エンパイア時代の精神を受け継ぎながら、現在も活動を続けています。

エンパイア・ピクチャーズは短命ではありましたが、1980年代のB級映画シーンにおいて、その野心的な企画と個性的な作品群で確かな足跡を残したプロダクションとして、今なお多くのファンに記憶されています。

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