ロボ・ジョックス

『ロボ・ジョックス』（Robot Jox）は、1990年にアメリカ合衆国で製作されたSFアクション映画です。本作は、アメリカで初めて制作された実写によるリアルロボット映画として知られています。日本でも、1990年のゆうばり国際ファンタスティック映画祭に出品され、注目を集めました。

製作背景とコンセプト

本作の製作コンセプトは、日本の巨大ロボットアニメが持つ迫力とドラマを、実写特撮映画として具現化することにありました。脚本を手がけたのは、著名なSF作家ジョー・ホールドマンです。彼の代表作である戦争SF小説『終りなき戦い』は、ヒューゴー賞とネビュラ賞をダブル受賞しています。監督であるスチュアート・ゴードンの友人であったことが、彼が本作の脚本を引き受けるきっかけになったと言われています。

ストーリーの根幹には、古代ギリシャの詩人ホメロスによる叙事詩『イリアス』（トロイア戦争を題材とする戯曲）がモチーフとして用いられています。作中では、領土問題を解決するために巨大ロボット同士が一騎討ちを行うという設定が、ホメロスの描いた戦争に置き換えられています。巨大ロボットを操縦するパイロットたちは「ジョックス」と呼ばれ、そのリングネームも古代ギリシャの人物名にちなんで名付けられています。

製作の過程では、数々の困難に見舞われました。特に、製作会社であるエンパイア・ピクチャーズの倒産という大きな危機があり、一時は完成した映画の公開自体が危ぶまれる事態となりました。しかし、こうした苦難を乗り越え、最終的には劇場公開に漕ぎ着けました。日本ではウエストケープコーポレーションが配給を担当しました。

特撮技術とロボットデザイン

本作の大きな魅力は、特撮技術によって実現された巨大ロボットの描写にあります。特撮を担当したのはデイヴィッド・アレンです。彼は、天然の太陽光の下で、ストップモーションやゴー・モーションといったモデルアニメーションの手法を駆使し、巨大ロボット同士の迫力ある格闘戦をリアルに映像化しました。

同時期に日本で制作された実写巨大ロボット映画『ガンヘッド』に登場するロボットが非人間的な形態であったのに対し、本作に登場するロボットは、二本足や四本足の人間型に近いデザインが特徴です。これらの巨大ロボットのデザインは、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズのデロリアンや、テレビドラマ『驚異のスーパー・バイクストリートホーク』のストリートホークなどを手がけた工業デザイナー、ロン・コッブが担当しました。

物語のあらすじ

舞台は核戦争によって人類の大半が失われてから半世紀後の世界です。生き残った人々は、「共和国（コモン・マーケット）」と「連邦（コンフェデレーション）」という二つの勢力に分かれて対立を続けていますが、全面戦争は禁止されています。領土問題などの争いは、巨大ロボットによる一対一の決闘によって決着がつけられることになっており、このロボットを操るパイロットは「ジョックス」と呼ばれ、最高の栄誉と地位を与えられていました。

共和国の誇るジョックスであるアキレスは、アラスカの領有権を賭けた試合に臨みます。対する連邦のジョックス、アレクサンダーは、試合中に禁止されているロケットパンチを使用し、制御不能になったパンチが観客席に飛び込む惨事を引き起こします。観客を守ろうとしたアキレスの機体も観客席に転倒し激突、多くの死傷者を出してしまいます。この悲劇に心を痛めたアキレスは、アレクサンダーとの再試合を拒否し、引退を決意します。しかし、彼の代役として、自身が惹かれていた女性ジョックスであるアシーナが出場することを知ります。アキレスは観客を入れないことを条件に、再び試合に出ることを承諾します。

試合当日、アシーナはアキレスを自室に閉じ込め、彼になりすまして出撃します。しかし、アレクサンダーの圧倒的な力に追い詰められます。遅れて駆けつけたアキレスはアシーナを救出し、ジョックスとしての誇りをかけてアレクサンダーとの最終決戦に挑むことになります。

主要な登場人物

- アキレス：共和国のジョックス。最下層からその地位まで上り詰めた過去を持つ。
- アシーナ：共和国の女性ジョックス。過去の優れたジョックスの遺伝子から生まれた試験管ベビー。
- アレキサンダー：連邦のジョックス。残忍で好戦的な性格。
- コンウェイ：共和国の戦技アドバイザー。元ジョックスで無敗の戦績を誇る。
- ジェイムスン：共和国側のロボット対戦コミッショナー。
- マツモト博士：共和国のロボット開発者。日系人。
- ラプラス教授：試験管ベビー・ジョックスを誕生させた研究者。

登場メカニック

- マツモト14号：マツモト博士が設計した共和国の最新鋭機。戦車、航空、人型の三形態に変形可能なオールラウンド性能を持ち、ロケット弾、レーザー、対レーザー反射鏡など多様な武装を備えています。マスター・スレイブ方式で操縦され、パイロットの動きをダイレクトに反映できます。
- ボバレフスキー42号：連邦の最強ロボット。共和国のスパイ活動で得た情報に基づき、常に相手の弱点を突く装備が施されています。ロケットハンドや巨大チェーンソーといった格闘兵器が豊富です。物語後半では四脚型に改修され、変形なしでの大気圏脱出能力も獲得します。こちらもマスター・スレイブ方式で操縦されます。

作品を支えたスタッフ

- 監督・原案：スチュアート・ゴードン
- 脚本：ジョー・ホールドマン
- 特撮：デヴィッド・アレン
- ロボットデザイン：ロン・コッブ
- 製作総指揮：チャールズ・バンド
- 撮影：マック・アールバーグ
- 編集：ロリ・ボール、テッド・ニコラウ
- プロダクションデザイン：ジョバンニ・ナタルッチ
- 音楽：フレデリック・タルゴーン他

『ロボ・ジョックス』は、困難な製作状況の中、日本アニメへのリスペクトとSFのテーマ性、そして当時の先端的なモデルアニメーション技術を結集して制作された、意欲的な実写ロボット映画として記憶されています。

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