エンリケ・ペーニャ・ニエト

エンリケ・ペーニャ・ニエト：メキシコの激動を象徴する大統領

エンリケ・ペーニャ・ニエト（1966年7月20日生まれ）は、メキシコの政治家であり、2012年から2018年まで第57代メキシコ合衆国大統領を務めました。彼の政治キャリア、特に大統領としての任期は、メキシコの政治と社会における重要な転換期を反映しており、国内外から大きな注目を集めました。

生い立ちと初期のキャリア

メヒコ州アトラコムルコ出身のペーニャ・ニエトは、パン・アメリカン大学で法律を学びました。2005年から2011年までメヒコ州知事を務め、その手腕を買われ、制度的革命党 (PRI) の有力な政治家として頭角を現しました。

大統領当選とPRIの復権

2012年、ペーニャ・ニエトは大統領選挙に出馬し、38%の得票率で当選しました。PRIは2000年に国民行動党 (PAN) に敗れて以来、12年ぶりに政権を奪還することになりました。71年間メキシコを支配してきたPRIの復権は、メキシコ政治の大きな転換点として注目されました。

大統領としての功績と課題

ペーニャ・ニエトは、メキシコ経済の活性化、国営石油会社ペメックスの改革、麻薬関連の暴力の減少などを公約に掲げました。インフラ整備にも力を入れ、メキシコ初の高速鉄道計画を打ち出しましたが、汚職疑惑により計画は頓挫しました。また、米国・メキシコ・カナダ協定（USMCA）に署名し、貿易関係の再構築に貢献しました。

しかし、彼の政権は多くの課題にも直面しました。2014年には、メキシコ麻薬戦争における最大の大量殺人事件とされるイグアラ市学生集団失踪事件が発生し、国際的な批判を浴びました。また、PRI政権時代の汚職や不正選挙のイメージを払拭できず、国民からの信頼を得ることは容易ではありませんでした。

批判と抗議運動

ペーニャ・ニエトの当選は、PRIの復権を望まない国民からの反発も招きました。各地で大規模なデモが行われ、特に学生運動「#YoSoy132」は、選挙の不正疑惑やメディアの偏向報道を追及しました。PRI政権時代の負の遺産に対する国民の根強い不信感が浮き彫りになりました。

人物像と私生活

ペーニャ・ニエトは、2007年に最初の妻モニカ・プレテリーニ・サエンスを亡くし、2010年に女優のアンヘリカ・リベラと再婚しましたが、2019年に離婚しました。彼は3人の子供の父親であり、婚外子もいます。2013年4月には日本を訪問し、日本の政治家や経済界のリーダーと会談しました。

評価

エンリケ・ペーニャ・ニエトは、メキシコ政治の歴史において、複雑な評価を受ける人物です。PRIの復権を主導し、経済改革やインフラ整備に一定の成果を上げましたが、汚職、人権侵害、社会不安などの問題も多く、国民からの信頼を十分に得ることができませんでした。彼の政権は、メキシコ社会の分断と課題を浮き彫りにするとともに、今後のメキシコ政治のあり方について深く考えさせる契機となりました。

著作

* 『世界論』（エンリケ・ペーニャ・ニエト、安倍晋三、朴槿恵ほか、土曜社、2014年1月）

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