エヴェン語

エヴェン語：シベリアのツングース語族言語

エヴェン語は、ロシア連邦東部シベリアに居住するエヴェン人（旧称：ラムート人）が話す言語です。ツングース諸語に属し、アルタイ語族に分類されます。エヴェンキ語、オロチョン語、ネギダール語と近縁関係にあり、かつてはエヴェンキ語と共に「ツングース語」と総称された時期もありました。

方言と歴史

エヴェン人の居住地域は広大であるため、数多くの地方語や方言が存在します。数十種類の方言があるという説もあり、大きく西部、中部、東部の三大方言区に分類されます。そのほかにもアルマン方言のような特定の方言区も存在します。

エヴェン語の文字化は1850年代から試みられましたが、正式に確立されたのは1930年代以降です。現在のエヴェン文字は、主に東部方言群のオラ方言に基づいて作られました。

エヴェン語の研究は19世紀末に始まりましたが、本格的な辞書や学術的研究成果が発表されるようになったのは1950年代以降です。特に、ベンツィングによる『ロシア語エヴェン語辞典』(1952年)は、約2万語を収録し、主要方言の語彙を網羅した重要な文献となっています。

音韻体系

エヴェン語の音韻体系は独特のものです。母音には7つの短母音（a, ə, o, ө, u, i, e）と7つの長母音（aa, əə, oo, өө, uu, ii, ee）があり、短母音の方がより頻繁に使用されます。複合母音は存在しますが、主に外来語で用いられます。

子音はp, m, w, d, t, n, l, r, s, g, k, x, ŋ, ɲ, dʒ, ʧ, jなど18種類以上あり、複合子音もいくつか存在します。アルタイ語族の特徴として、子音rは語頭に現れず、n, g, s, rは語尾に出現する頻度が高いです。また、母音調和の規則が厳格に適用され、母音は陽性母音（a, aa, o, oo）、陰性母音（ə, əə, ө, өө）、中性母音（i, ii, e, ee, u, uu）の3種類に分類され、陽性母音と陰性母音は一つの単語の中に共存しません。

地理的分布と社会言語学的状況

エヴェン人の多くは、東シベリアのマガダン州やカムチャツカ地方に居住しています。サハ共和国にもエヴェン人が多く住んでいますが、日常会話ではサハ語を使用する人が多いのが現状です。エヴェン語は、他の言語との接触によって影響を受け、その使用人口は減少傾向にあります。そのため、言語の維持・発展のための取り組みが重要となっています。

エヴェン語研究の現状と課題

エヴェン語の研究は、言語学、民族学、人類学など多様な分野から行われています。しかし、未解明な部分も多く、方言の多様性に関する詳細な調査や、言語構造の更なる解明、そして、言語のデジタルアーカイブ化などの課題が残されています。これらの課題に取り組むことで、エヴェン語の保存と発展に貢献することが期待されます。

参考文献

朝克（丸山宏・上野稔弘編訳）『ツングースの民族と言語』東北アジア研究センター、2002年

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