エーリューズニル

エーリューズニル：死者の国の女王ヘルの壮麗にして恐るべき館

北欧神話において、死者の国ヘルの女王ヘルが住まう宮殿として知られるのがエーリューズニルです。その異様なまでの規模と、不吉な名前を持つ調度品の数々は、この地の恐ろしさを象徴しています。古ノルド語で「Éljúðnir」と表記されるこの宮殿は、想像を絶する光景を私たちに提示します。

『ギュルヴィたぶらかし』は、エーリューズニルの様子を克明に伝えています。まず目を奪われるのは、その圧倒的な規模です。宮殿を取り囲む垣根は、想像をはるかに超える高さにそびえ立ち、門もまた巨大で、容易に近づくことのできない威圧感を与えます。

そして、宮殿内部の調度品は、死者の国にふさわしい、不気味で象徴的な名前を持っています。ヘルが食事に使う食器は、「フング（空腹）」と名付けられた皿と、「スルト（飢え）」と呼ばれるナイフです。これらは、この地における絶え間ない飢餓を暗示しているかのようです。

召使の名前もまた、異様な雰囲気を醸し出しています。下男は「ガングラティ」、下女は「ガングレト」と呼ばれ、彼らの名前からも、この地の不穏な空気が伝わってきます。

さらに、宮殿の入り口の敷居は「ファランダ・フォラズ（落下の危険）」と名付けられています。この名前は、この敷居を越えることが、容易ではない危険な行為であることを示唆しています。一歩間違えれば、奈落の底に突き落とされてしまうのかもしれません。

ヘルの寝床もまた、象徴的な名前を持っています。ベッドは「ケル（病床）」と呼ばれ、その上にかけられたカーテンは「ブリーキンダ・ベル（輝く災い）」と名付けられています。このベッドは、決して安らかな眠りを与える場所ではなく、病と不幸の象徴として存在しているようです。

このように、エーリューズニルは、その規模と調度品、そしてそこに住まう者の名前から、死者の国としての恐ろしさを強く印象づける場所として描かれています。その異様な雰囲気は、北欧神話の世界観を象徴する一つの要素と言えるでしょう。この宮殿は、単なる住居ではなく、死者の国の象徴であり、北欧神話における死生観の一端を垣間見せる重要な空間なのです。エーリューズニルに関する記述は、北欧神話を理解する上で貴重な手がかりを提供し、私たちに死後の世界への深い考察を促すものです。

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