スルト

北欧神話における炎の巨人スルト：終末と火の象徴

スルトは、北欧神話において重要な役割を担う巨人です。その名は「黒」または「黒い者」を意味し、ラグナロク（神々の黄昏）において、世界を滅ぼす存在として描かれています。物語におけるスルトの姿は、複数の古文書によって異なった側面が示されており、その解釈は多岐にわたります。

スルトの起源と役割

スルトの誕生については、明確な記述がありません。しかし、『スノッリのエッダ』では、ムスペルヘイム（火の世界）の入り口を守る炎の巨人として登場します。ムスペルヘイムとニヴルヘイム（闇の世界）しか存在しなかった太古の昔から存在し、ムスペルヘイムの国境を守護していたとされています。

『スノッリのエッダ』では、スルトは炎の剣を持ち、ラグナロクにおいて最後まで生き残り、世界を焼き尽くすとされています。一方、『古エッダ』の『巫女の予言』では、ラグナロクの記述の中に彼の名は登場しません。神々と直接対立したり、関与する場面も描かれていません。

『巫女の予言』では、スルトは「枝の破滅」（火）を持ってくると記されています。これは『スノッリのエッダ』の炎の剣と解釈されることが多いですが、アイスランドの研究者シーグルズル・ノルダルは、異なる解釈を提示しています。ノルダルは、スルトが持ってくるのは炎と、かつて神フレイが所有していたが手放した剣であると推測しています。この推測は、北欧神話における「特定の人物だけが特定の武器で敵を倒せる」というよくあるパターンに基づいています。

『巫女の予言』には、「スルトの親族が大樹を呑み込む」という記述もあります。「スルトの親族」は、世界樹ユグドラシルを呑み込もうとする狼フェンリル、またはユグドラシルを焼き尽くす炎と解釈されています。

ラグナロク後、スルトがどうなったかは不明です。『スノッリのエッダ』における生存者リストには、彼の名前が含まれていません。

スルトとムスペル

ラグナロクにおいて、神々と戦う勢力には「ムスペルの子ら」と呼ばれる集団が含まれます。『スノッリのエッダ』では、ムスペルの子らの先頭に、炎に包まれたスルトが位置するとされています。しかし、『巫女の予言』では、ムスペルはロキが率いる船ナグルファルに乗って東から攻めてくるとされ、南からやってくるスルトとは別行動をとることになっています。

このムスペルは、『古エッダ』の『ロキの口論』にも登場し、フレイがムスペルの子らと戦う場面が描かれますが、スルトの名は出てきません。

スルトとレーヴァテイン、シンモラ

スルトの炎の剣は、『フョルスヴィズルの言葉』に登場する剣「レーヴァテイン」と同一視されることがあります。この歌には、スルトの妻とされるシンモラも登場し、彼女はレーヴァテインを保管しているという記述があります。

スルトとアイスランドの火山活動

多くの研究者は、スルトを描写した詩人は、アイスランドの火山活動に強い印象を受けていたと考えています。アイスランド入植者が初めて火山噴火を目撃した際にスルトという巨人が想像されたか、あるいは入植以前からスルトという炎の巨人のイメージが存在し、火山活動がそのイメージをより鮮明にしたかのいずれかだと考えられています。

人間社会におけるスルト

アイスランドでは、スルトという名前は古くから人名として使われてきました。最初は通称として使われていたものが、次第に本名としても使われるようになり、11世紀のキリスト教導入後は一般的な男性名となりました。アイスランド語では、褐炭を「スルトの燃え木」、火山爆発でできた長さ1.5キロメートル以上の洞窟を「スルトの洞窟」と呼び、スルトの住処だと考えられていました。1963年にアイスランド沖で発生した海底火山噴火で生まれた島は「スルツェイ（スルトの島）」と名付けられています。

まとめ

スルトは、北欧神話における終末と火の象徴的存在です。その起源や詳細な役割については諸説ありますが、ラグナロクにおける重要な存在であり、アイスランドの文化にも深く根付いていることがわかります。彼の物語は、北欧の人々の自然観や世界観を反映していると言えるでしょう。

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