オオキンカメムシ

Eucorysses grandis (Thunberg) は、その名の通り大きく、鮮やかな赤い体色に大きな黒い斑紋を持つキンカメムシ科の昆虫です。熱帯地域を原産とし、比較的広い範囲に分布しており、地域によって斑紋の形状などに変異が見られます。

日本では、主に本州南部以南、具体的には静岡県と石川県を結ぶ線よりも南西の沿岸部を中心に定着した分布域を持ちます。しかし、夏の時期には本来の生息域ではない本州北部や中部山岳地帯、さらには北海道からも採集されることがあります。これらの多くは夏季に発見され、特にメスに偏っていることから、繁殖を目的としない「無効分散」として長距離を移動している可能性が指摘されています。中には台風に乗って運ばれたと推測される例や、海上での発見例もあり、本種が高い移動能力を持つことがうかがえます。ただし、これらの北方地域では越冬が難しいため、一年を通して見られるのは温暖な本州南部以南に限られます。

形態的特徴

成虫の体長は20〜25mmほどで、カメムシとしては大型の部類に入ります。背面は丸みを帯びて盛り上がり、腹面は比較的平らです。体色は全体的に鮮やかな赤で、強い光沢があり、光の加減で虹色に輝いて見えます。背中にはこの赤色を地色として、複数の大きな黒い斑紋が配置されます。これらの斑紋の大きさや形にはかなりの個体差や地域差が見られます。日本で一般的に見られるタイプは、前胸の後端から小楯板の前端、小楯板の後端、そしてそれらの間に二対の黒い横長の斑紋が入るパターンが多いですが、より斑紋が小さい、あるいは少ない個体も存在します。腹面は全体が黒く、こちらも虹色の光沢を帯びています。触角と脚も黒色です。

頭部は尖った三角形をしており、背面が黒く、側面は赤い色をしています。頭部に続く前胸は後方に向かって広がり、全体として三角形をなし、後端は左右にやや突き出します。胸部以降の胴体背面は、巨大な小楯板によってほぼ覆われています。

幼虫は、齢によって姿は異なりますが、成虫と同様に背面が丸く盛り上がった丸っこい形をしています。頭部、胸部、および腹部の背板は金属光沢のある黒っぽい色をしていますが、それ以外の腹部の部分は赤みを帯びています。

生態と習性

オオキンカメムシの成虫と若虫は、主にアブラギリの果実から汁を吸って成長します。近縁のシナアブラギリでは正常に発育できないことが知られています。かつてはツバキやハゼなどが寄主植物として挙げられたこともありますが、これらは幼虫の発育には適さないようです。現在では、アブラギリ以外にセンダンやクチナシなども候補として考えられています。

繁殖は初夏頃から始まり、成虫は交尾の後、100〜140個ほどの卵を一層に並べた塊として産み付けます。孵化した幼虫はアブラギリなどの果実の汁を吸って成長し、5回の脱皮を経て終齢幼虫となり、その後成虫になります。新しい成虫は7月から8月頃に出現します。

本種の最も特徴的な習性の一つが、成虫による集団越冬です。冬になると、越冬可能な南部の地域に集まり、例えば四国では室戸岬や足摺岬といった温暖な沿岸部でよく知られています。海岸近くの日当たりの良い場所に生えるツバキやミカン、トベラなどの常緑樹の枝先や葉の裏、あるいは樹幹などに、数十頭が集まって身を寄せ合う姿が見られます。興味深いことに、越冬場所は毎年ほぼ同じ場所が選ばれる傾向があります。集団は12月後半頃から形成され始め、翌年の4月頃までその場所にとどまり、その後分散して活動を開始します。このような集団越冬の習性は、近縁のアカギカメムシや他のいくつかのカメムシでも観察されます。

人との関わり

オオキンカメムシは、かつてアブラギリが盛んに栽培されていた時代には、その果実を吸汁することで褐色化・落果させる重要な農業害虫として知られていました。江戸時代の文献にも「アブラギリを食すゆえ毒を持つ」といった趣旨の記述があると言われており、古くから人々に認識されていたことがわかります。しかし、現代ではアブラギリの商業栽培がほとんど行われなくなったため、主要な農業害虫としての重要性は失われました。現在でもミカン類の若い果実から汁を吸う例も報告されていますが、その被害は限定的であり、全体的な利害関係における重要性は低いと言えます。

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