オオクモヘリカメムシ

オオクモヘリカメムシ

オオクモヘリカメムシ（学名：Anacanthocoris striicornis）は、カメムシ目ヘリカメムシ科に分類される昆虫の一種です。カメムシとしては大型で、成虫の体長は20mm程度に達します。体は細長く、多くの部分が光沢のない緑色を呈し、前翅は黒っぽい褐色をしており、緑と黒褐色のコントラストが鮮やかです。ただし、死後は黄色く退色してしまうため、標本ではこの特徴的な体色は失われます。

このカメムシは主にネムノキを食草としており、ネムノキが多く見られる明るい草原や川原、林縁部などで比較的普通に観察できます。その名前は、イネ科植物の害虫として知られるクモヘリカメムシに似ており、それよりも大きいことに由来します。形態は確かに類似していますが、この名前のために、本来イネ科の害虫ではないにも関わらず、イネ科に付く虫だと誤解されることもありました。後に述べるように、他の作物に加害することもあります。

特徴

成虫は体長約20mm。背面は頭部、前胸部、小楯板が緑色、前翅が黒褐色という明確な体色区分を持ちます。体型は細長く、頭部は小さく突き出ており、複眼は黒褐色、単眼は赤色です。触角は細長く、全体が褐色ですが、先端の第4節の基部側半分が緑色であるため、先端部が明るく見えます。

前胸部は後方に向かって直線的に広がり、胴部の幅とほぼ同じになり、後端直前が体の中で最も幅広くなります。前胸の縁には黒い明確な稜があり、後端付近でわずかに側方に張り出します。腹部の側面は前翅からほとんどはみ出しません。歩脚は緑色で、基部付近は色が濃くなります。

幼虫は成虫とは異なり、全身が緑色で、わずかに暗い斑紋が見られます。前胸部が狭く、腹部中央が最も幅広い体型をしています。終齢幼虫になると翅芽が発達し、前胸部もやや幅広くなり、より成虫に近い体型へと変化します。

習性と生活史

オオクモヘリカメムシの主食はネムノキの汁です。そのため、ネムノキのある環境で容易に見つけることができます。明るく開けた場所を好む性質があります。まれに、果樹園に侵入してカキやミカンなどの若い果実から汁を吸うこともあります。静止する際には、両側の触角と前脚をまっすぐに揃えて前方に突き出す独特の姿勢をとることがあります。

繁殖においては、葉裏に数個ずつまとまって卵を産み付けます。卵は長さ2mm強、幅1.5mmほどの楕円形で、一端に幼虫が孵化脱出するための白い縁取りのある円形の蓋があります。卵から幼虫が孵化するまでには10〜15日を要します。幼虫は5回の脱皮を経て成虫になり、この幼虫期間は約1ヶ月から1ヶ月半程度です。羽化した成虫はすぐに繁殖活動を開始するため、おそらく年に二世代を繰り返すと考えられています。冬は成虫の姿で越冬します。

分布

日本では本州、四国、九州に分布しています。国外では朝鮮半島、中国大陸からインド、スリランカといった南アジアまで広く分布しています。

利害

農業分野においては、カキやミカンなどの果樹の若い果実を吸汁することがあり、農業害虫として扱われることがあります。しかし、その被害は限定的であり、重要な害虫とされることは少ないです。

衛生害虫や不快害虫としての側面もあります。刺激を受けると悪臭を放つのは多くのカメムシ類に共通する特徴ですが、この種の放つ臭いは非常に強烈です。日本で普通に見られるカメムシの中では、最も臭いが強いカメムシの一つとして知られています。過去の文献でも「その臭気は特にはげしい」「臭気特に猛烈」などと記されています。ただし、積極的に人家に侵入するなど人間生活との接触機会は多くありません。

分類上の位置づけ

名前が似ているクモヘリカメムシと比較すると、オオクモヘリカメムシははるかに大型であり、体型もクモヘリカメムシの方が一回り細いという違いがあります。本種には形態的に類似した近縁種がいくつか知られています。特に似ているのがミナミトゲヘリカメムシ（Paradasynus spinosus）です。大きさや基本的な形態は似ていますが、ミナミトゲヘリカメムシは背面全体が褐色であること、前胸の縁後端に小さな隆起ではなく鋭い棘がある点などで区別できます。こちらはシロモジなどクスノキ科植物を食草とし、ミカンなどの果実に加害することもあり、本州南部以南に分布します。

もう一度検索