オオミヤノメ

オオミヤノメ：宮殿の守護神、そして商売繁盛の神

オオミヤノメは、古代日本の朝廷において重要な役割を担った女神です。神道の神として、『延喜式神名帳』や『古語拾遺』といった文献にその名が記されており、それぞれ大宮売神、大宮能売大神として登場します。これらの文献や、大殿祭の祝詞などから、オオミヤノメは宮殿の平安を守る神、天皇や朝廷関係者の守護神として崇敬されていたことがわかります。

神話におけるオオミヤノメ

オオミヤノメに関する記述は、『古事記』や『日本書紀』といった主要な神話集には見られません。しかし、『古語拾遺』には、太玉命の子として登場し、天岩戸から新殿に移った天照大神に仕える侍女として、その存在が記されています。この記述では、オオミヤノメが、内侍（女官）として、巧みな言葉で君臣間の仲を円滑にする役割を担っていたとされています。

オオミヤノメの多様な側面

オオミヤノメは、神祇官で祀られた天皇守護の八神の一柱であり、朝廷では非常に重要な神として扱われていました。宮殿の人格化、あるいは女官の神格化という解釈も存在し、その役割は君臣間の調和、円滑な人間関係の維持にありました。こうしたことから、現代においては旅館や百貨店といった接客業の守護神として信仰されるだけでなく、家内安全や家族和合の神としても広く信仰されています。

さらに、オオミヤノメは伏見稲荷大社に祀られる稲荷三神の一柱でもあります。主祭神である宇迦之御魂神（ウカノミタマ）の配神として上社に祀られており、ウカノミタマに仕える巫女を神格化したという説も存在します。ウカノミタマは穀物神であるため、この解釈はオオミヤノメの農業や経済との繋がりを示唆しています。平安京の官営市場の守護神として祀られた歴史もあり、商売繁盛の神としても広く信仰を集めています。

江戸時代の国学者である平田篤胤は、『宮比神御伝記』において、伊勢神宮内宮に祀られる宮比神を、オオミヤノメまたはアメノウズメ（芸能の女神）の別名であると説いています。祐徳稲荷神社や志和稲荷神社などでも、オオミヤノメとアメノウズメを同一視し、技芸上達の神として祀っている例が見られます。

オオミヤノメを祀る神社

オオミヤノメを主祭神として祀る神社としては、神祇官の故地に近い大宮姫稲荷神社（京都府京都市上京区）や、「大宮売」を称する唯一の式内社である大宮売神社（京都府京丹後市）が挙げられます。その他、伏見稲荷大社をはじめとする日本各地の稲荷神社では、ウカノミタマなどの配神として祀られています。オオミヤノメは、古くから朝廷や民間で広く信仰を集め、現代でも多くの人の生活に寄り添う神として存在感を保っています。

参考文献

式内社研究会編 編『式内社調査報告 第1巻』皇學館大学出版部、1979年
岡田精司「神祇官の祭り -西院の神々と御巫の奉仕-」『新編 神社の古代史』学生社、2011年
中村陽・監修『稲荷大神』、戎光祥出版、2009年
戸部民夫『「日本の神様」がよくわかる本』、PHP研究所、2004年
* 『お伊勢さん125社めぐり』別冊『伊勢人』、伊勢文化舎、2008年

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