古語拾遺

『古語拾遺』の概要

『古語拾遺』（こごしゅうい）は平安時代における神道に関する重要な資料であり、官人である斎部広成によって編纂されました。この文献は、806年や807年に成立したとされ、古事記や日本書紀といった他の史書には見られない斎部氏に伝わる独自の伝承を含んでいる点が特徴です。

成立と背景

『古語拾遺』は大同2年の807年2月13日に成立したとされています。この記述は、他の写本から見られる806年説と異なり、跋の文面に「方今、聖運初めて啓け」とあることから、平城天皇の即位に伴う改元後にあたることがわかります。また、日本後紀の記載より、808年の勅裁に先立って書かれたと考えると、明確な論理的矛盾が生じるため、806年説は否定されていることが明らかになります。

斎部広成について

斎部広成はその経歴があまり知られていない人物ですが、昇進に関する情報は若干残されており、平城天皇の大嘗祭において重要な役割を果たしたと考えられています。しかし本書の跋には彼の位が従五位下と記載されており、当時の地位である正六位上との不一致が指摘されています。この discrepance が後の改変によるものであるとの見解もあります。

編纂の意図と目的

『古語拾遺』が編纂された理由については、いくつかの説があります。古代の祭祀を司っていた斎部氏が失われつつある正統性を回復する意図で書かれたのではないかという「愁訴陳情書説」がありますが、近年では朝廷に提出された法制整備に関する調査報告書である可能性が高いとの見解が一般的です。この背景には、天皇の指導のもとで法の整備が進む中、斎部氏がその重要性を訴えるために必要とされた情報であると考えられています。

内容の構成

本書は、天地開闢から天平年間に至るまでの伝承を中心に構成されており、神代の伝承や古伝承が網羅されています。その中には、斎部氏の祖神である天太玉命に関する記述が多く見られ、『古事記』や『日本書紀』とは異なる独特の視点からの神話的な物語が展開されています。また、歴代天皇の呼称に関しても、神武天皇のみが漢風諡号で記載され、以後は宮の所在地に基づく表現が用いられています。

研究の歴史と影響

『古語拾遺』は、安永2年（1773年）に奈佐勝皋によって批判され、さらに本居宣長による擁護が存在しています。しかし近代以降は、その有用性を疑問視されることが多く、特に昭和3年（1928年）に津田左右吉によって評価が下げられました。しかし、近年では再評価が進み、特にリチャード・ボンソンビー＝フェインは記紀よりも本書を重視しています。

まとめ

『古語拾遺』は、平安時代における神道資料としてだけでなく、斎部氏の歴史や文化を知る上で欠かせない重要な資料です。これまでの研究の蓄積により、その意義は日々再評価されつつあり、古代日本の祭祀や文化に対する深い理解を促進するための基礎として位置づけられています。

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