オオルリボシヤンマ

オオルリボシヤンマ (大瑠璃星蜻蜒)

分類と学名

オオルリボシヤンマは、トンボ目ヤンマ科ルリボシヤンマ属に分類される大型のトンボです。かつては Aeshna nigroflava という学名が与えられ、日本固有種と考えられていました。しかし、近年の詳細なDNA解析などの分子生物学的な研究が進んだ結果、ユーラシア大陸に広く分布する Aeshna crenata と遺伝的にほとんど差がないことが判明しました。このため、現在では Aeshna crenata の中に含められることになり、日本固有種ではなく世界的な分布を持つ種として扱われています。

分布

このトンボは、ユーラシア大陸の広範囲に分布しており、ヨーロッパからロシア、朝鮮半島を経て日本列島に至るまで生息しています。日本では、主に北海道、本州、そして九州にその姿を見ることができます。興味深いことに、日本の南西部に分布する個体ほど、より標高の高い場所に生息する傾向が見られます。例えば、九州の鹿児島県に位置する霧島山のような高地でも確認されています。

形態

オオルリボシヤンマは、日本のヤンマの中でも最大級の大きさを誇ります。近縁のルリボシヤンマと比較しても、やや大型になる傾向があります。オスは全長が76mmから94mm、腹長は53mmから67mm、後翅の長さは49mmから60mm程度です。一方、メスは全長が76mmから93mm、腹長は54mmから69mm、後翅長は50mmから63mmほどになります。その体色は非常に特徴的で、黒い体色に鮮やかな瑠璃色（または青色や緑色）の斑紋が入り、これは黄色い斑紋を持つオニヤンマの配色パターンを思わせます。成長したオスの斑紋は美しい青色になりますが、メスには青色の斑紋を持つ個体と緑色の斑紋を持つ個体の両方が存在します。胸部の側面に位置する斑紋の上端が後方へ長く伸びる個体が多く見られ、腹部の第3節から第6節にかけての前方には、細いリング状の淡い色の斑紋があります。オスの尾部付属器は外縁が比較的直線的で丸みが少なく、上付属器の背面には小さな突起が並んでいます。メスの尾毛は細長い形状で、その外縁はほぼ直線状です。

ルリボシヤンマとの識別は、大きさ以外にもいくつかの点で行えます。本種の方が全体的に青みがかった個体が多い傾向があり、特に胸部側面の黄色い模様の形状に違いが見られます。オオルリボシヤンマでは、この模様の上部が横方向にはみ出す部分が比較的太いですが、ルリボシヤンマではこの部分がやや細くなっています。

幼虫、すなわちヤゴは、全長が約48mmに達します。複眼は体の前側方に張り出しており、体にある斑紋はルリボシヤンマのヤゴよりも明瞭であることが多いとされます。腹部の側面にある棘（側棘）は、第6節から第9節にかけて確認できます。

生態

オオルリボシヤンマは、平地から山地の比較的標高の高い場所にかけて生息します。周囲に樹木があり、水辺には抽水植物（水中から茎や葉が立ち上がる植物）や浮葉植物（葉が水面に浮かぶ植物）が生育している池沼や、高層湿原、あるいは高山の池塘（ちとう、高原の池）などを好んで利用します。特に、比較的冷涼な気候の場所にある、開けた池や湿地環境を好む傾向が見られます。近縁のルリボシヤンマと比べると、より低地でも生息している例があります。

生活史は比較的長く、卵の期間は約6ヶ月から8ヶ月です。孵化した幼虫（ヤゴ）は水中で生活し、羽化するまでに1年から3年ほどの時間を要します。世代交代には2年から4年かかることもあります。越冬は、最初の冬は卵の状態で過ごし、2年目以降はヤゴとして水底などで冬を越します。成虫は、夏の終わり頃である7月下旬から秋の半ばである10月中旬にかけて出現します。成熟したオスは、日中の時間帯に生息地の池沼の上空を広く、ゆったりと飛び回って縄張りを作ります。メスが水辺に姿を現すと、オスは積極的に追いかけますが、交尾のための連結に至ることはそれほど頻繁ではありません。たとえ連結した場合でも、メスが交尾を拒否することも少なくないようです。無事に交尾が成立すると、オスとメスは水辺近くの樹木の枝などで静止して交尾を終えます。産卵は、水辺の岸に生えている草の茎や、水面に浮かぶ枯れ木などにメス単独で行われます。

保全状況

国際自然保護連合（IUCN）のレッドリストにおいては、「軽度懸念（LC: Least Concern）」として評価されています。しかし、日本国内では、一部の地域で生息地の環境変化などにより個体数が減少し、絶滅が危惧されている場所もあります。日本の環境省および各都道府県のレッドリストでは、以下の指定を受けている地域があります。

• - 絶滅危惧IB類（EN）：埼玉県
• - 準絶滅危惧（NT）：神奈川県、大阪府、和歌山県、山口県、大分県、宮崎県
• - 分布特性上重要：鹿児島県
• - 情報不足（DD）：東京都

近縁種

同じルリボシヤンマ属には、いくつか近縁種が存在します。

ルリボシヤンマ (Aeshna juncea)：オオルリボシヤンマとよく似ていますが、腹部の第3節から第6節の前半にある細い環状の淡色斑紋が見られない点で識別できます。
マダラヤンマ (Aeshna mixta)：ルリボシヤンマ属の中では最も小型の種で、オオルリボシヤンマを全体的に小さくしたような形態をしています。日本では北海道から北陸地方にかけて分布しています。
* イイジマルリボシヤンマ (Aeshna subarctica)：ルリボシヤンマやオオルリボシヤンマよりもさらに小型で、体色の青みがより強い傾向があります。日本では北海道のみに分布しています。

これらの近縁種との識別は、形態的な特徴や分布域を注意深く観察することで可能となります。

（この記述は、提供された情報を基に構成・加筆したものです。詳細な情報は専門の文献や図鑑をご確認ください。）

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