オスマン帝国の行政区画

オスマン帝国の行政区画：変遷と特徴

オスマン帝国の行政区画は、単なる地理的な区分ではなく、帝国の軍事力と統治機構を支える重要な要素でした。その歴史は、帝国の拡大と衰退を反映し、大きく初期と後期の2つの時代に分けられます。

初期行政区分：サンジャクとベイレルベイリク

オスマン帝国の起源は、中央アナトリア地方にセルジューク朝属国として建国された時期にまで遡ります。その後、周囲の小国やベイリク（君侯国）を併合しながら勢力を拡大しました。この拡大過程において、オスマン家はセルジューク朝の統治方法を巧みに利用しました。既存のベイ（君侯）をそのまま統治者として残し、彼らにオスマン帝国のスルタンへの宗主権を認めさせることで、スムーズな支配体制を築きました。

初期の行政区分は、サンジャク（県）が基本単位でした。サンジャクは、スルタン直轄のものと、スルタンの王子が統治するものとに分けられ、サンジャク・ベイスと呼ばれるスルタンから軍旗を与えられた司令官が統治にあたりました。しかし、帝国がヨーロッパに拡大すると、サンジャクの上に上位区分を設ける必要性が生じました。

そこで、ムラト1世（在位1359-1389年）はベイレルベイを創設し、ルメリア（バルカン半島）に設置しました。同時に、アナトリア地方のルム地方（現在のAmasya周辺）にもベイレルベイリク（州）を設け、スルタンが直接統治を行いました。ベイレルベイリクの創設により、サンジャクは第二位の行政区分となりましたが、新しく併合された地域などでは、サンジャクが最上位の区分となることもありました。ベイレルベイは、その州全体の軍隊の指揮権も掌握していました。

16世紀のセリム1世とスレイマン1世の治世には、帝国の行政区画は大きく増加し、17世紀後半には42ものエヤレト（州）が存在するまでに至りました。エヤレトはサンジャクベイが統治するサンジャク（県）から構成され、さらにサンジャクはティマール（騎士領）とゼアメト（大騎士領）から成り立っていました。サンジャクの中には、エヤレトに属さないもの（例えばエルサレム県）もありました。サンジャクベイは県内の騎士を指揮する権限を持っていました。エジプト、バグダード、アビシニア、アル＝ハサーなどの州にはサンジャクは設置されませんでした。

後期行政区分：ヴィライェトとタンジマート改革

オスマン帝国の衰退と共に、帝国の行政機構は崩壊の危機に瀕していました。1861年には、レバノン山脈にヨーロッパの支援を受けたマロン派キリスト教徒による自治県が設立されるなど、不安定な状況が続いていました。こうした状況を打破するため、1864年、タンジマート改革の一環として、それまでのエヤレトを廃止し、より小規模なヴィライェト（州）を創設することが決定されました。

ヴィライェトの統治には、スルタン政府（Porte）が任命するワーリ（総督）が当たり、新たに州議会も設立されました。ヴィライェトの下にはサンジャクとムタサリファト（県）が置かれましたが、セルビア、ルーマニア、モンテネグロなどの属国は、この州制度には組み込まれませんでした。

19世紀後半以降、オスマン帝国の行政区画は、地理的な位置や政治情勢の変化に応じて何度も再編されました。1885年以降の小アジア地域は、15のヴィライェト、1つのサンジャク、イスタンブール州からなり、ヴィライェトの下にサンジャクが置かれる体制が確立されました。しかし、帝国の崩壊と共に、この行政区分も終焉を迎えることになります。

まとめ

オスマン帝国の行政区画は、帝国の成立から崩壊まで、その歴史と軌跡を反映した複雑なシステムでした。初期のサンジャクとベイレルベイリクから、後期のヴィライェトへの移行は、単なる行政機構の変化ではなく、帝国の政治・軍事・社会構造の変容を物語っています。その複雑な行政システムを理解することで、オスマン帝国の歴史をより深く理解することができます。

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