オゼッラ・FA1H

オゼッラ・FA1H：1986年シーズンの挑戦と挫折

オゼッラ・スクアドラ・コルセが1986年のF1世界選手権参戦のために投入したフォーミュラ1マシン、オゼッラ・FA1H。このマシンは、チームのチーフエンジニア、ジュゼッペ・ペトロッタの手によって設計されました。FA1Hは、前モデルであるFA1Gを進化させたものであり、そのルーツは1983年のアルファロメオ・183Tにまで遡ります。しかし、FA1Hはわずか2戦の出場で大きな損傷を受け、修復されることなくその短いF1でのキャリアを終えました。後継マシンとなるFA1Iは、FA1Hの主要な特徴を受け継ぎつつ、翌1987年にデビューを果たします。

開発の背景：競争力のあるエンジンの獲得を目指して

FA1Hの開発は1985年12月に開始されました。チームオーナーであるエンツォ・オゼッラは、1986年シーズンに向けて、時代遅れとなったアルファロメオ製の8気筒エンジンを、より競争力のある最新のエンジンに換装しようと奔走していました。その計画の一環として、モトーリ・モデルニ社と交渉を行い、同社がカルロ・キティのミナルディチームのために開発していた6気筒ターボエンジンの購入を試みました。FA1Hは当初、この新型エンジンを搭載することを前提に設計されていました。しかしながら、交渉は最終的に決裂し、オゼッラはアルファロメオ製のエンジンを使用せざるを得なくなりました。この交渉の失敗は、FA1Hの開発スケジュールに大きな遅延をもたらし、既存のエンジンに適合させるための急な設計変更を余儀なくされました。

開発：前モデルをベースとした改良

FA1Hの開発は、主にジュゼッペ・ペトロッタによって主導されました。車両の基本構造は、前モデルのFA1F/FA1Gと同様、数シーズンに渡り改良を続けられてきたアルファロメオ・184T（一部資料では183T）のカーボンコンポジット・モノコックをベースとしていました。このモノコックは、翌1987年シーズンも継続して使用されることになります。

サスペンションシステムには改良が加えられ、前モデルで使用されていたタイロッドに代えて、リアアクスル上にスラストストラットが取り付けられました。また、ホイールベースを30mm延長することで、重量配分の最適化が図られました。両サイドポッドには、ターボチャージャーの冷却効率を高めるための小さな開口部が設けられました。さらに、燃料タンクの容量は195リットルに削減され、これによってエンジンカバーの高さを低く抑えることが可能となり、リアウィングへの気流が改善されました。しかし、風洞実験を行うための予算が依然として不足していたため、空気力学的な改良は、ペトロッタの経験と勘に基づいて行われました。

FA1Hには、当初の計画にはなかったアルファロメオ製890Tエンジンが搭載されました。このV型8気筒エンジンは、排気量1497cc、ボアストローク74.0mm×43.5mm、圧縮比7:1というスペックを持ち、11,800回転で700馬力を発生しました。ピストンはマーレー製、ピストンリングはクレバイテ製、インジェクションはスピカ製、イグニッションはマレリ製といった、当時の最高水準の部品が使用されていました。また、ターボチャージャーにはKKK製のものが採用されました。このエンジン一式は、1985年までユーロレーシングが運営していたアルファロメオ・レーシングチームが使用していたものと同一でした。

レース戦績：短い輝きと突然の終焉

ミサノサーキットでの短いテスト走行の後、FA1Hはサンマリノグランプリに持ち込まれましたが、このレースでは実際には走行しませんでした。そして、ベルギーグランプリの後、ようやく実戦投入の準備が整いました。北米での2連戦を挟んだ後、7月のフランスグランプリでFA1Hはついにデビュー戦を迎えます。ドライバーはピエルカルロ・ギンザーニで、予選では25位という結果に終わりましたが、決勝レースではアレッサンドロ・ナニーニのミナルディと接触、リタイアを喫しました。

続くイギリスグランプリでは、セカンドドライバーのアレン・バーグがFA1Hをドライブしました。スタート直後、オゼッラの2台とリジェのジャック・ラフィット、アロウズのクリスチャン・ダナーが絡む大クラッシュが発生し、FA1Hは大きな損傷を受けました。この事故により、FA1Hは修復不能となり、チームは残りのシーズンを旧型のFA1FおよびFA1Gで戦うことを余儀なくされました。オゼッラ・FA1Hの短いF1でのキャリアは、こうして幕を閉じました。

参考文献

Ian Bamsey: The 1000 bhp Grand Prix Cars. Haynes Publications, Yeovil 1988, ISBN 0-85429-617-4.
Adriano Cimarosti: Das Jahrhundert des Rennsports. Autos, Strecken und Piloten. Motorbuch-Verlag, Stuttgart 1997, ISBN 3-613-01848-9.
David Hodges: Rennwagen von A–Z nach 1945. Motorbuch-Verlag, Stuttgart 1994, ISBN 3-613-01477-7.
David Hodges: A–Z of Grand Prix Cars. Crowood Press, Marlborough 2001, ISBN 1-86126-339-2.
* Pierre Ménard: La Grande Encyclopédie de la Formule 1. 2. Auflage. Chronosports, St. Sulpice 2000, ISBN 2-940125-45-7.

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