オットー・ハーン

オットー・ハーン：原子核分裂の発見者とその波乱の人生

オットー・ハーン (1879年3月8日-1968年7月28日) は、20世紀における最も重要な科学者の1人であり、原子核物理学に革命をもたらした人物です。ドイツ出身の化学者、物理学者として、放射線研究に生涯を捧げ、その業績により1944年にノーベル化学賞を受賞しました。

ハーンの研究生活は多岐に渡り、数々の重要な発見を残しました。1904年には放射性トリウムを発見し、1917年にはプロトアクチニウムを発見するなど、放射性物質に関する深い知見を蓄積していきました。1921年にはウランの核異性体であるウラニウムZを発見し、1928年にはカイザー・ヴィルヘルム化学研究所の所長に就任。同研究所は後にベルリン自由大学のオットー・ハーン記念ビルとなりました。

しかし、彼の名を不滅のものとしたのは、1938年の原子核分裂の発見です。この発見は、20世紀の科学技術、そして世界の歴史を大きく変えることとなりました。原子力エネルギーの利用、原子爆弾の開発といった、人類社会に計り知れない影響を与える出来事の端緒を開いたのです。

ハーンの研究は、リーゼ・マイトナーとの長年にわたる共同研究が土台となっていました。30年以上にわたる緊密な協力関係は、科学史に残る成功物語として語られるべきものですが、その裏には複雑な人間関係と歴史的背景が潜んでいます。マイトナーはユダヤ系であったため、ナチス政権下で迫害を受け、1938年にスウェーデンへと亡命を余儀なくされました。

核分裂の発見に至る過程においても、ハーンとマイトナーは密接に連絡を取り合っていました。ハーンは実験結果をマイトナーに伝え、マイトナーは甥であるオットー・ロベルト・フリッシュと共に、その結果を理論的に解釈し、核分裂という概念を確立しました。マイトナーとフリッシュによる論文は、核分裂のメカニズムを明確に示し、科学界に大きな衝撃を与えました。

しかし、ハーンはナチス政権下の圧力に屈し、マイトナーを共同研究者としてノーベル賞受賞の業績に含めませんでした。この決定は、マイトナーにとって大きな失望となり、また科学史における不名誉な出来事として記録されています。ハーンは受賞スピーチでもマイトナーの貢献に触れることは少なく、その後も単独での発見を主張し続けました。マイトナーはハーンへの手紙の中で、「40年間の友情を裏切られた思い」と悲痛な心情を吐露しています。

今日では、ハーンは原子核分裂の発見者として、マイトナーは核分裂の概念の確立者として、それぞれ重要な役割を果たしたと評価されています。両者の貢献は、科学史において切り離して考えることはできません。両者の名前は元素名に提案されましたが、マイトナーにちなんだマイトネリウムだけが採用され、ハーンにちなんだ元素名は採用されませんでした。

オットー・ハーンの生涯は、科学研究の進歩と、歴史的、政治的状況が科学活動に及ぼす影響を如実に示しています。彼の業績は人類に多大な貢献をもたらしましたが、その業績の裏側には、複雑な人間関係や、時代背景による葛藤も存在していたのです。彼の功績と、マイトナーとの複雑な関係は、科学史における重要な教訓として、未来永劫語り継がれていくでしょう。彼の業績を称えるため、オットー・ハーン賞、オットー・ハーン・メダル、オットー・ハーン平和メダルなどが設立されています。また、原子力船の名前にも彼の名が冠せられています。

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