核分裂の発見

核分裂の発見：科学史上の転換点

1938年12月、世界は原子核物理学における画期的な発見を目の当たりにしました。それは、原子核がそれより軽い複数の原子核に分割される「核分裂」の発見です。この発見は、オットー・ハーンとフリッツ・シュトラスマンという化学者、そしてリーゼ・マイトナーとオットー・ロベルト・フリッシュという物理学者らによってなされました。

背景：放射能研究の歩み

核分裂の発見は、長年にわたる放射能研究の蓄積の上に成り立っています。1895年のレントゲンによるX線の発見、続く1896年のベクレルによるウランからの放射線の発見は、この分野に新たな地平を開きました。キュリー夫妻によるポロニウムとラジウムの発見は、放射性元素の存在を明らかにし、放射能研究を大きく発展させました。

ラザフォードはベクレル放射線をアルファ線、ベータ線、ガンマ線と分類し、アルファ粒子がヘリウム原子核であることを示唆しました。さらに、ソディとの共同研究で放射性崩壊の法則や半減期の概念を確立、同位体の概念も導入しました。これらの発見は原子構造の理解を深め、原子核物理学の発展に大きく貢献しました。

プロトアクチニウムの発見と謎

1913年、ソディとファヤンスはアルファ崩壊とベータ崩壊による元素の周期表上の位置の変化を法則化しました。この法則に基づき、トリウムとウランの間に存在するはずの未知の元素「プロトアクチニウム」の存在が予測されました。ハーンとマイトナーは、カイザー・ヴィルヘルム化学研究所において、このプロトアクチニウムの同位体を発見、元素記号Paを与えました。この発見は、ウランの放射性崩壊系列の解明に繋がりました。

核変換と中性子の発見

1932年、チャドウィックは中性子を、またキュリー夫妻は人工放射性元素の作成に成功しました。これは核変換、すなわち原子核が別の原子核に変わる現象を実証したものでした。中性子の発見は、原子核反応の研究に新しい可能性をもたらしました。特に、電気的に中性である中性子は、原子核に容易に侵入できることから、核反応研究に重要な役割を果たすこととなりました。

フェルミの実験と超ウラン元素への期待

フェルミは、当時最重量元素であったウランに中性子を照射する実験を行い、新元素（超ウラン元素）が生成したと主張しました。この業績により、彼は1938年のノーベル物理学賞を受賞しました。しかし、この解釈には異論もありました。ノダックはウラン原子核が分裂した可能性を指摘しましたが、当時この考えは受け入れられませんでした。

核分裂の発見：ハーンとシュトラスマンの発見

ハーンとシュトラスマンは、中性子を照射したウランから、ウランよりもはるかに軽い元素であるバリウムが生成したことを発見しました。ハーンはウラン原子核が分裂した可能性を考えましたが、物理的な説明を見つけられずにいました。彼らはこの発見を、ナチス・ドイツを逃れてスウェーデンに移住していたマイトナーに伝えました。

マイトナーとフリッシュによる理論的解明

マイトナーとフリッシュは、ウラン原子核が分裂し、莫大なエネルギーを放出するという理論を構築しました。この過程は、フリッシュが生物の細胞分裂になぞらえて「核分裂」と名付けました。彼らの理論は実験によって確認され、『ネイチャー』誌に発表されました。

核分裂のメカニズム：液滴モデル

ボーアとホイーラーは、原子核の液滴モデルを用いて核分裂のメカニズムを説明しました。このモデルは、原子核を液滴に見立て、表面張力やクーロン斥力などを考慮することで、核分裂を理論的に説明することに成功しました。

核分裂の発見とノーベル賞

ハーンは核分裂の発見により、1944年のノーベル化学賞を受賞しました。しかし、共同研究者であったマイトナーが受賞から漏れたことは、科学史における大きな議論を呼びました。この件には、複雑な政治的・学問的事情が絡んでいました。マイトナーとフリッシュは核分裂の理論的解明に重要な貢献をしたにもかかわらず、ノーベル賞を受賞することはありませんでした。

核分裂研究の発展と原子力

核分裂の発見は、原子力発電や核兵器開発へとつながる、科学技術史上、きわめて重要な出来事でした。核分裂反応における連鎖反応の可能性が明らかになったことで、原子力エネルギーの利用という新たな可能性が開かれました。しかし同時に、核兵器という人類を滅ぼしかねない兵器の開発という負の側面も存在します。

歴史的評価：ハーン、マイトナー、そしてシュトラスマン

核分裂発見におけるハーン、マイトナー、シュトラスマンの貢献の評価は、長年に渡り議論されてきました。ハーンはノーベル賞を受賞しましたが、マイトナーとシュトラスマンの貢献も無視できるものではありません。この発見は、多様な人材の協力によって生まれたものであり、その歴史的評価においては、各々の貢献を正確に理解することが重要です。近年では、マイトナーの貢献が再評価されつつあります。

もう一度検索