リーゼ・マイトナー

リーゼ・マイトナー：核分裂の発見と波乱の生涯

リーゼ・マイトナー（1878年 - 1968年）は、20世紀を代表する物理学者の一人です。オーストリア・ウィーン生まれのユダヤ系家庭に育ち、女性が高等教育を受けにくい時代においても、並々ならぬ努力でウィーン大学で物理学博士号を取得しました。放射能、特に核物理学の分野で顕著な業績を残し、その名は核分裂の発見と深く結びついています。

ウィーンからベルリンへ：研究の道

ウィーン大学時代、マイトナーはルートヴィッヒ・ボルツマンの講義に感銘を受け、物理学への情熱を深めました。博士号取得後、当時ヨーロッパ科学の中心地であったベルリンへ。しかし、当時のドイツでは女性の科学界進出は遅れており、ベルリン大学では当初、木工作業場を研究場所として提供されました。そこで、オットー・ハーンとの運命的な出会いと共同研究が始まりました。ハーンの化学的知識とマイトナーの物理的知識は互いに補完しあい、放射線研究に大きな成果をもたらしました。

カイザー・ヴィルヘルム研究所での活躍とプロトアクチニウムの発見

カイザー・ヴィルヘルム研究所に移籍後、マイトナーはハーンとの共同研究を続けながら、自身の研究も進めました。第一次世界大戦中はオーストリア軍のX線技師として従軍、戦地の悲惨さを目の当たりにした後、研究所に戻り、1918年には新元素プロトアクチニウムを発見するなど、数々の成果を挙げました。1922年にはベルリン大学の教授となり、女性物理学者として先駆的な地位を築きました。また、β崩壊に関する研究でも重要な発見をしています。当時、β崩壊で放出される電子のエネルギーは一定ではないとされていましたが、マイトナーは、電子が原子核から直接放出され、その一部がγ線に変換されるという説を提唱し、その後のオージェ効果の発見につながる重要な実験結果を得ました。

ナチス政権下での苦悩と亡命：核分裂の発見

1933年、ナチスが政権を握ると、ユダヤ人であるマイトナーは教授職を追われます。亡命を余儀なくされるまで、ドイツに残ることを選択したマイトナーでしたが、1938年、オーストリアのドイツ併合により、身の危険を感じ、スウェーデンに亡命しました。まさにその頃、ハーンとシュトラスマンはウランへの中性子照射実験で、既存の理論では説明できない結果を得ていました。ハーンからの助けを求める手紙を受け取ったマイトナーは、甥のオットー・ロベルト・フリッシュと共に、その結果を核分裂として解釈し、論文を発表。この業績は原子力の平和利用と核兵器開発という、人類史を大きく変える転換点となりました。しかし、マイトナー自身は核兵器開発には一切関与しませんでした。

スウェーデンでの研究生活と晩年

スウェーデンでの生活は決して楽なものではありませんでした。研究環境も恵まれたとは言えず、孤独な研究生活を送る中、ハーン、シュトラスマンとの共同研究は手紙によるやり取りで行われました。戦後、マイトナーはアメリカに招かれ、各地で講演を行い、高く評価されました。しかし、核分裂の発見に関するノーベル化学賞はハーンにのみ授与され、マイトナーは受賞を逃しました。これは、当時の科学界における女性、ユダヤ人に対する差別、そして選考委員会における複雑な政治的・学問的関係が背景にあるとされています。1997年、109番元素はマイトネリウムと命名され、その功績が改めて認められました。晩年はイギリスで静かに余生を送り、90歳で生涯を閉じました。

マイトナーと周囲の科学者たち

マイトナーは多くの著名な科学者と交流しました。マックス・プランク、アルベルト・アインシュタイン、マリ・キュリー、ニールス・ボーア、マックス・フォン・ラウエ、ジェームズ・フランク、そしてオットー・ハーンなど、それぞれの科学者との出会いと交流は、マイトナーの人生と研究に多大な影響を与えました。

結び

リーゼ・マイトナーの生涯は、科学への飽くなき探求心と、激動の時代を生き抜いた女性の強さを物語っています。女性、ユダヤ人という立場での困難にも屈することなく、科学に貢献した彼女の業績は、現代科学における女性の地位向上と、平和利用のための科学技術開発の重要性を改めて認識させるものです。彼女の功績は、マイトネリウムという元素名に刻まれ、永遠に語り継がれていくでしょう。

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