オト

マルクス・サルウィウス・オト：短命に終わった皇帝の生涯

マルクス・サルウィウス・オト（32年-69年4月16日）は、ローマ帝国を揺るがした「四皇帝の年」において、わずか3ヶ月という短い期間、皇帝の座に就いた人物です。その生涯は、華麗な出自、権力闘争、そして悲劇的な最期によって彩られています。

貴族の出自とネロ帝との関係

オトはエトルリア系の名家、サルウィウス家出身の貴族でした。父ルキウス・サルウィウス・オトは執政官を務め、皇帝ティベリウス帝と親しい関係にあったと伝えられています。その親密さゆえ、ルキウスはティベリウス帝の隠し子ではないかという噂が流れたほどでした。オトには兄がおり、さらに、甥にあたるルキウス・サルウィウス・オト・コッケイアヌスは、のちにドミティアヌス帝によって処刑されるという悲劇的な運命を辿ることになります。

オトは若き頃からネロ帝と親交があり、親しい友人として知られていました。ネロ帝の寵妃ポッパエア・サビナと結婚していましたが、ネロ帝がポッパエアに目をつけたため、離婚を余儀なくされています。その後、ネロ帝によってルシタニア（現在のポルトガル）総督に任命され、ローマから遠ざけられました。しかし、ルシタニア総督としてのオトは、公正な統治を行い、民衆から高い支持を得ていました。

ガルバ帝暗殺と皇帝即位

ネロ帝の死後、ローマ帝国は混乱の時代に入りました。ガルバ帝が皇帝になると、オトはガルバ帝の親戚として、その反乱と即位を支持しました。オトは、後継者に指名されると期待していましたが、ガルバ帝はピソ・リキニアヌスを後継者に選びました。この決定に激怒したオトは、プラエトリアニ（近衛兵）を買収し、ガルバ帝とピソ・リキニアヌスを暗殺、自ら皇帝の座に就きました。

ウィテッリウスとの対立と最期

しかし、オトの皇帝としての地位は長くは続きませんでした。ゲルマニアで反乱を起こしたウィテッリウスがローマに迫っていたのです。オトは、ドナウ川付近の軍団を呼び戻すなどして対抗を試みましたが、クレモナ近郊でウィテッリウス軍に敗北しました。敗戦の報を受け、オトは自ら命を絶ちました。わずか3ヶ月足らずの治世は、幕を閉じました。歴史家タキトゥスは、オトの自殺が市民間の流血を避けたと評価しています。

オトの評価

オトの皇帝としての在位期間は非常に短く、その統治ぶりについて語るには資料が不足しています。しかし、ルシタニア総督時代の善政や、最期の自殺によって市民の犠牲を減らそうとした行動は、彼の人物像の一端を垣間見せています。彼の死後、ローマ帝国はさらに混乱を極め、四皇帝の年の争いは続いていきます。オトの短い皇帝としての生涯は、権力闘争の激しさ、そしてその時代の儚さを象徴する出来事と言えるでしょう。

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