ポッパエア・サビナ

ポッパエア・サビナ：美貌と権力に彩られたネロ帝の妻

ポッパエア・サビナ（Poppaea Sabina, 30年 - 65年）は、ローマ帝国第5代皇帝ネロの2番目の妻として歴史に名を残しています。その美貌と知性でネロを魅了し、帝国の政治に大きな影響を与えたとされる彼女の生涯は、多くの謎と悲劇に包まれています。

生い立ちと家族

ポッパエアは、イタリアのピケヌム（現在のマルケ州）で、ティトゥス・オッリウスと、同名の母ポッパエア・サビナの間に生まれました。父ティトゥス・オッリウスは、財務官を務めたものの、ルキウス・アエリウス・セイヤヌスとの関係が災いし、失脚。母は美貌と愛嬌で知られていましたが、西暦47年にメッサリナによって自害を命じられました。母方の祖父ガイウス・ポッパエウス・サビヌスは、ティベリウス帝の治世下で執政官を務め、ギリシアへ赴任するなど活躍しました。ポッパエアという名前は、当時の女性の命名慣習に従い、祖父の名前から取られています。

父の死後、母はプブリウス・コルネリウス・レントゥルス・スキピオと再婚。スキピオは元老院議員であり、この再婚によってポッパエアは皇帝に近い存在となりました。

結婚とネロとの出会い

西暦44年、ポッパエアはルフリウス・クリスピヌスと結婚。クリスピヌスは、プラエフェクトゥス・プラエトリオ（近衛隊長）まで上り詰めた人物でしたが、後に小アグリッピナによって失脚しました。その後、58年頃にネロの親友であったオトと結婚しますが、その美貌がネロの目に留まり、愛人となります。そして、オトはルシタニアへ左遷されることになります。

皇帝の妃として

歴史家タキトゥスは、ポッパエアを野心家で非情な女性として描いています。彼女は、ネロに近づくためにオトと結婚し、ネロの母小アグリッピナの殺害を唆したとも言われています。62年に近衛隊長ブッルスが死去すると、ガイウス・オフォニウス・ティゲッリヌスと組んでセネカを政界から引退させ、ネロと妻クラウディア・オクタウィアの離婚を画策。オクタウィアを離婚、自殺に追い込み、その年のうちにネロと結婚しました。その後、娘を授かりますが、夭折してしまいます。

ポッパエアはネロの妻として、キリスト教徒を迫害したとされています。しかし、ユダヤ教徒の歴史家フラウィウス・ヨセフスは、彼女を信仰心の厚い女性として記述しており、ユダヤ人社会の保護者であったとも考えられています。

突然の死

西暦65年、ポッパエアは死去しました。死因については諸説あり、スエトニウスは、妊娠中にネロと口論になり、下腹部を蹴られたことが原因であるとしています。一方、タキトゥスは、毒殺説を伝えています。ネロはポッパエアの死を深く悲しみ、火葬にせず、香油に浸し、香料を詰めて霊廟に納めたと伝えられています。

最初の夫ルフリウス・クリスピヌスは、ポッパエアの死の同年にネロによって追放され、翌66年に処刑されました。ポッパエアが産んだ息子ルフリウス・クリスピヌスも、66年にネロによって処刑され、ポッパエア直系の血筋は絶えてしまいます。

逸話

ポッパエアはその美貌を保つために、500頭もの雌ロバを連れ、ロバの乳で入浴していたと言われています。また、小麦やライ麦、ハチミツ、ロバの乳などから作った美容パックを使用し、外出時にはマスクを着用するなど、美への執念は並大抵ではなかったようです。

ポッパエアを題材にした作品

クラウディオ・モンテヴェルディのオペラ『ポッペーアの戴冠』
技来静也の漫画『拳闘暗黒伝セスタス』シリーズ
* とり・みき、ヤマザキマリの漫画『プリニウス』

ポッパエア・サビナは、その美貌と権力への野心、そして悲劇的な死によって、今もなお多くの人々の関心を集める女性です。

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