オモイカネ

オモイカネノミコト（おもかねのかみ）、あるいはオモイカネ神は、日本神話において重要な役割を担う神です。古事記では「思金神」や「常世思金神」、日本書紀では「思兼神」、先代旧事本紀ではさらに複数の表記が見られ、その名称の多様性からも神格の複雑さを窺い知ることができます。

最も有名なエピソードは、天照大神の岩戸隠れです。天の安河原に集まった多くの神々が、岩戸から天照大神を誘い出す方法に頭を悩ませていた際、オモイカネノミコトは機転と知恵で解決策を授けました。この逸話から、オモイカネノミコトは知恵と策略の神として広く信仰されるようになりました。

さらに、オモイカネノミコトは国譲りにも関わっています。葦原中国の支配者である大国主神との交渉において、神々の派遣や意思決定に重要な役割を果たしたとされています。天孫降臨においては、邇邇芸命に随伴し、新たな時代の到来をサポートしたとも伝えられています。

オモイカネノミコトの名前の解釈には諸説あります。「八意思兼神」という表記から、「八」を「多い」、「意」を「思慮」と解釈し、「多くの思慮を兼ね備えた神」という意味だとする説や、東京都杉並区の気象神社では「八意」を『晴』『曇』『雨』『雪』『雷』『風』『霜』『霧』といった八つの気象を表し、オモイカネノミコトがそれら全てを司るとする解釈もあります。

系譜については、高御産巣日神の子であり、妹に天忍穂耳命の妻である万幡豊秋津師比売命がいます。先代旧事本紀では、信濃国に降り立ったとされ、信乃阿智祝部の祖神、さらには知々夫国造の祖神とも伝えられています。子神として天表春命・天下春命がいます。

信仰は全国に広がり、秩父神社（埼玉県秩父市）や阿智神社（長野県下伊那郡阿智村）などでは、知々夫国造や阿智祝部の祖神として祀られています。戸隠神社の中社などでは知恵や学問の神としても信仰されており、気象神社（東京都杉並区）では気象を司る神として祀られています。

また、オモイカネノミコトは建築にも関与すると考えられており、建築前に執り行われる「手斧初（ちょうのうはつ）」という儀式では、主神として信仰されています。これは建物の正面にオモイカネノミコトの名前を記し、建築の安全と成功を祈願する儀式です。

このように、オモイカネノミコトは知恵、策略、気象、建築など、多岐にわたる分野に関係する神として、古来より人々に崇められてきました。多くの神社で祀られ、その信仰は現代にまで受け継がれています。その多様な側面は、日本神話におけるオモイカネノミコトの重要性を改めて示すものです。

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