オリジナル・サウンドトラック

10cc『オリジナル・サウンドトラック』

1975年にイギリスの独創的なロックバンド、10ccがリリースした通算3作目のアルバムが『オリジナル・サウンドトラック』（The Original Soundtrack）である。本作は、彼らの代表作として広く認知されており、特にバラードの金字塔として名高い世界的ヒットシングル「アイム・ノット・イン・ラヴ」を収録していることで知られる。また、インディーズレーベルだったUKレコードから、メジャーであるフォノグラム傘下のマーキュリー・レコードへ移籍後、最初に発表した記念碑的な作品でもある。

メジャーへの飛躍をかけた一枚

10ccは、UKレコードに在籍していた頃、本国イギリスでは「ラバー・ブレッツ」など数々のヒット曲を連発し成功を収めていた。しかし、零細なレーベルであったUKレコードはプロモーション資金が乏しく、特にアメリカ市場での展開は限定的で、バンドの持つポテンシャルを十分に発揮できていなかった。この状況に不満を抱いていたメンバーは、より大規模なレコード会社への移籍を強く希望するようになる。彼らは本作『オリジナル・サウンドトラック』を、その移籍交渉における重要なカードとして位置づけ、入魂のサウンドを作り上げた。新興のヴァージン・レコードが興味を示す中、最終的には資金力で勝るフォノグラムがバンドとの契約を勝ち取った。本作は、バンドが世界的な成功を目指す上での重要な転換点となったのである。

架空の映画を巡るコンセプト

アルバムは、組曲形式のロック・オペラ「パリの一夜」で華々しく幕を開ける。この三部構成の楽曲は、アルバム全体のトーンを決定づける要素となっている。本作の最大の特徴は、「架空の映画のためのサウンドトラック」という、10ccらしいひねりの効いたコンセプト設定にある。各楽曲が、実在しない映画のワンシーンを彩るかのようなイメージで制作されており、アルバム全体を通して、ある種のストーリー性や統一感が感じられる構成となっている。このユニークな発想が、リスナーに想像力を掻き立てさせる魅力となっている。

伝説的なヒット曲の誕生

本作からのシングルカットである「アイム・ノット・イン・ラヴ」（I'm Not in Love）は、バンド史上最大の成功を収めた楽曲である。メンバーが開発した独創的なコーラス技法を駆使したこのバラードは、瞬く間に世界中のチャートを駆け上がり、イギリスで第1位、アメリカで第2位を記録する特大ヒットとなった。オランダ、ベルギー、西ドイツなどヨーロッパ諸国でもトップ10入りを果たし、10ccを国際的なスターダムへと押し上げた決定的な一曲と言える。

また、アルバムに先行してリリースされたシングル「人生は野菜スープ」（Life Is a Minestrone）も、彼らの創造性を示す一曲である。この曲は、メンバーであるロル・クレームとエリック・スチュワートがタクシー内でラジオから流れたDJの言葉からインスピレーションを得て生まれたという、ユニークな誕生秘話を持つ。全英シングルチャートで7位、ベルギーで15位、オランダで17位とヒットし、アルバムへの期待感を高めた。さらに、日本の作家・片岡義男は、この曲の邦題から着想を得て、1976年に同名の小説を発表しており、音楽作品が他の芸術分野に影響を与えた興味深い事例となっている。

視覚的な魅力も兼ね備えたアートワーク

アルバムのアートワークは、ピンク・フロイドなどの作品で知られるデザイン集団、ヒプノシスが前作に引き続き担当した。見開きのゲートフォールド・カバーや歌詞カードの随所には、イラストレーターのハンフリー・オーシャンによる、驚くほど精緻で美しい鉛筆画が使用されている。この緻密なアートワークは、アルバムの持つコンセプト性や音楽世界の雰囲気を視覚的に表現しており、作品全体の魅力を一層引き立てている。

収録曲

Side 1

パリの一夜 (Une Nuit a Paris)
パリのある夜 (Part 1 : One Night in Paris)
同じその夜のパリ (Part 2 : The Same Night in Paris)
夜がふけて (Part 3 : Later The Same Night in Paris)
アイム・ノット・イン・ラヴ (I'm Not in Love)
ゆすり (Blackmail)

Side 2

2度目の最後の晩さん (The Second Sitting For The Last Supper)
ブランド・ニュー・デイ (Brand New Day)
フライング・ジャンク (Flying Junk)
人生は野菜スープ (Life Is a Minestrone)
* 我が愛のフィルム (The Film of My Love)

もう一度検索