オルトコロナウイルス亜科

オルトコロナウイルス亜科とは

オルトコロナウイルス亜科（Orthocoronavirinae）は、一本鎖プラス鎖RNAをゲノムとするウイルスのグループで、哺乳類や鳥類に感染症を引き起こします。これはニドウイルス目コロナウイルス科に属しており、アルファ、ベータ、ガンマ、デルタの各コロナウイルスが含まれます。過去には「コロナウイルス亜科」や「コロナウイルス属」と呼ばれていましたが、2018年に現在の名称に改められました。一般的に「コロナウイルス」と言う場合、このオルトコロナウイルス亜科を指すことが多くなっています。

ウイルスの特徴

オルトコロナウイルスは、その表面に花弁状のスパイクタンパク質を持ち、太陽の光冠（コロナ）のように見えるのが特徴です。エンベロープ（膜構造）を持ち、内部にはらせん対称性のヌクレオカプシドがあります。サイズは直径80-220nm程度と多形性で、ゲノムサイズは約26〜32kbと、RNAウイルスの中では最大級です。

症状は感染する生物によって異なり、鶏では上気道疾患、牛や豚では下痢を引き起こします。ヒトでは、風邪のような呼吸器感染症から、SARS、MERS、COVID-19のような致死的な感染症まで、多様な症状を引き起こすことが知られています。

名前の由来

コロナウイルスという名前は、電子顕微鏡で観察した際のウイルスの外観に由来します。ビリオン（ウイルス粒子）の表面にある突起が、太陽のコロナに似ていることから名付けられました。「コロナ」という言葉は、ラテン語で「光冠」を意味する「corona」に由来し、さらにその語源はギリシア語の「κορώνη」（korṓnē）に遡ります。また、亜科名の「オルト」は、ギリシア語の「歪みのない」を意味する「ορθός」（オルソス）に由来します。

歴史

最初に発見されたコロナウイルスは、1931年に報告されたニワトリの伝染性気管支炎ウイルスです。その後、1940年代にはマウス肝炎ウイルスや豚伝染性胃腸炎ウイルスも報告されました。ヒトの病原体としては、1960年に風邪の患者からヒトコロナウイルスB814が発見されましたが、培養が難しく失われました。その後、ヒトコロナウイルス229EとOC43が発見されました。

当初、これらのウイルスの関連性は不明でしたが、電子顕微鏡による観察で構造の類似性が指摘され、1971年にはコロナウイルス属としてまとめられました。分子系統解析が進んだ2009年には、コロナウイルス属が再編され、アルファからデルタの各コロナウイルスが設定されました。その後、2018年にレトウイルス亜科がコロナウイルス科に加わった際、従来のコロナウイルス亜科はオルトコロナウイルス亜科に改名されました。

分類

オルトコロナウイルス亜科は、レトウイルス亜科と共にコロナウイルス科に属しています。オルトコロナウイルス亜科には、4つの属と45種が含まれます。

アルファコロナウイルス属：ヒトコロナウイルス229E、NL63、ブタ流行性下痢ウイルスなど
ベータコロナウイルス属：マウスコロナウイルス、MERSコロナウイルス、SARS関連コロナウイルスなど
ガンマコロナウイルス属：鶏伝染性気管支炎ウイルスなど
デルタコロナウイルス属：ヒヨドリコロナウイルスHKU11など

ウイルスの構造

オルトコロナウイルスの粒子は、脂質二重膜であるエンベロープに覆われています。エンベロープには、スパイクタンパク質やヘマグルチニンタンパク質が埋め込まれており、宿主細胞の認識に関与します。内部には、ゲノムRNAを包むヌクレオカプシドがあります。

ゲノム

オルトコロナウイルスのゲノムは、DNAではなくRNAです。ゲノムRNAは、宿主細胞内でmRNAとして機能し、ウイルスのタンパク質を合成します。ゲノムRNAの5'末端にはリーダー配列があり、mRNAは異なる長さの配列を持っています。ウイルスのタンパク質は、mRNAのオープンリーディングフレームから翻訳されます。

タンパク質

[ウイルス]]粒子の主要な構造タンパク質として、ゲノムRNAに結合するヌクレオ[[タンパク質]があります。エンベロープには、[スパイクタンパク質]、膜[タンパク質]、エンベロープ[タンパク質]が存在します。

増殖過程

オルトコロナウイルスは、以下の過程を経て動物細胞内で増殖します。

1. 感染：スパイクタンパク質が宿主細胞の受容体に結合し、ウイルスが細胞内に侵入します。
2. 複製：ウイルスゲノムRNAが細胞質内でmRNAとして機能し、ウイルスタンパク質が合成されます。RNA合成酵素によって、ウイルスのゲノムRNAが複製されます。
3. 放出：ウイルスタンパク質とゲノムRNAが結合してヌクレオカプシドを形成し、エンベロープと結合してウイルス粒子が細胞外に放出されます。

進化

コロナウイルスの共通祖先は紀元前8000年頃に存在していたと考えられています。コウモリや鳥類は、コロナウイルスの進化と拡散を促進する重要な宿主です。多くのヒトコロナウイルスはコウモリに起源を持つと考えられています。例えば、SARSコロナウイルスは、コウモリとの関連性が深く、ごく最近になってヒトに感染するようになったと考えられています。

ヒトコロナウイルス

ヒトに感染するコロナウイルスは、風邪の原因となるものから、重症の呼吸器疾患を引き起こすものまで、様々な種類が存在します。主なものとしては、以下の7種類が知られています。

アルファコロナウイルス属
ヒトコロナウイルス229E：風邪の病原体
ヒトコロナウイルスNL63：風邪の病原体
ベータコロナウイルス属
ヒトコロナウイルスHKU1：風邪の病原体
ヒトコロナウイルスOC43：風邪の病原体
[SARSコロナウイルス]：[重症急性呼吸器症候群]の病原体
[MERSコロナウイルス]：[中東呼吸器症候群]の病原体
* SARSコロナウイルス2(SARS-CoV-2)：新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の病原体

動物コロナウイルス

コロナウイルスは、家畜、実験動物、ペット、野生動物など、多くの動物に感染し、さまざまな疾患を引き起こします。例えば、ブタ流行性下痢ウイルス、鶏伝染性気管支炎ウイルス、猫伝染性腹膜炎ウイルスなどが知られています。

このように、オルトコロナウイルス亜科は多様なウイルスを含み、動物とヒトの健康に大きな影響を与える重要なウイルス群です。

もう一度検索